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最終話
「違う学部でいいから、俺と同じ大学か距離が近いところを目指せ。そうすればたぶん実家は出れるし、適当に理由つけて家賃も折半できる」
「それって一緒に住めるってこと? 最高だね!?」
「そうなりたきゃスカスカの頭に授業内容叩き込めよ」
「頑張る!」
提示されたご褒美に瞳を輝かせて、わんと元気よく返事をする。今までしっかりと進路のことを考えていなかった祐介がやる気を見せたのならば、彼の両親は応援してくれるだろう。元気で賑やかな似た者家族なのだ。
(……こいつはこのままでいいのかもな)
勉強にあまり興味が持てないことが理由で、どうやら現在の成績はごく平均的らしい。まだ低空飛行ではないだけ、早めに目標を定めてしまえばこれからいくらでも努力できる。
当面は互いの学力を考慮した大学選びをしつつ、いずれすることになる面談で進学希望と答えればいい。ただ少しだけ不安なのは、祐介が余計な口を滑らせないかどうかだ。
「条件てそれだけ? あとはなにかある?」
「あ? あー、そうだな」
考えながらもたれかかった背中から、高い体温がじんわりと伝わってきて眠くなる。ゆらゆらと揺すられることでよりいっそう眠気を感じて、肩越しに振り返った視線の先に目を止めた。
「お前も開けるか? 耳」
「えっ!? 痛いのは嫌なんだけど……」
「べつに強制じゃねえよ。気が向いたら俺にやらせろ」
直紀の勝手なイメージでは、ネックレスは女性が細い首にするから似合うのだ。指輪は場所によって意味が重すぎるし、そそっかしい祐介は失くしてしまう可能性が高い。それは小さいピアスでも同じことが言えるけれど、皮膚を貫いた跡は残る。
「……俺も重症だな」
「うん? なんだかわかんないけど、明日も一緒にいようね」
想像もできないこれからのことで悩んでも、ひとりの力でどうにかできることは少ないのかもしれない。意外と心配性で深く考えてしまいがちな直紀のことを、朗らかな祐介が助けてくれる機会はきっと多いはずだ。
fin.
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