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第2話
「……怒られた」
「馬鹿だから?」
「違う! ……あ、いや、そうかもしれないけど、気が利かないとか話が下手とか、なんかいろいろ……」
身も蓋もない直紀の物言いに最初は勢いよく反論したものの、自分で言いながら徐々に元気がなくなっていく。勝手な印象からほんわりとした花畑のような彼女だと思っていたが、意外にはっきりとした性格だったらしい。
「その調子で本番でも失敗したか?」
「……うう」
今度は肩を落としてがくりと落ち込んだ。いちいち賑やかなリアクションになるほどなとあっさり話を終わらせると、どこか悔しそうに唸りながらクッションを抱きかかえる。
すると再び雑誌を開こうとした直紀に拗ねたのか、その手を掴んで口元に引き寄せて、いきなり指先に噛みついてきた。
「っはあ!? 痛ってえな!」
「あだっ」
がりっと強く歯を立てられて反射的に振り払う。弾みで頬に当たった手に少しだけ怯み、むっとした表情のまま懲りずに肩を押されて、ベッドの上に仰向けに倒された。
訳がわからない行動に負けじと直紀が睨み上げたのを意にも介さず、少しだけ怒ったような顔をしてぬけぬけと突拍子もないことを言ってくる。
「じゃあ直紀が教えてよ」
「あ?」
「キスとセックスのやりかた」
どうせ慣れてるんでしょうと唇の端にぎこちなく触れるだけのキスをされ、悪ふざけの冗談や聞き間違いではないことに唖然とした。明るくて人当たりがよく、運動神経もいいことから周りに好かれやすいけれど、こいつは根の部分が昔からずれているのだ。
それに祐介の言いかたでは、こちらが手当たり次第に情事に及んでいるようにも聞こえる。相手から誘われて体だけの関係を持つことはあっても、さすがに毎回ではないし交際に発展することもない。そういう後腐れのない繋がりだ。
「……お前、なに言ってんだ」
「痛くしないし嫌ならやめるから、ね? いいでしょ?」
とんでもない提案に驚いて目を瞠っていると、反論を遮って念を押しながら、逃げられないように両腕をついて覆い被さってくる。
予想外の出来事に言葉を失った直紀に、黙っていることが返事だと受け取ったのか、都合よく解釈した祐介がうれしそうににっこりと笑った。
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