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第3話
「ねえ、俺隣のクラスの須佐なんだけど、直紀いる? いたら呼んでほしいなぁ」
「な、直紀って……もしかして戸坂?」
「そうだよ」
それからどう断ろうにも押しきられてしまい、翌日からわざわざ待ち合わせをして、一緒に登下校するようになった。
普段はあまりこのクラスに顔を出さない祐介が廊下から呼びかけ、すぐ近くにいた生徒に声をかける。しかし彼が言う直紀と教室にいる戸坂がなかなか結びつかなかったようで、困惑して聞き返すうちに探していた相手と目が合ったらしい。
まだ半分ほど生徒が残っていた教室から直紀を見つけると、ぱっと目を輝かせて手を振った。
「あっいた! おーい! 帰ろ!」
「……うるせえ」
「わかりやすくていいじゃん!」
よく通る声量と直紀が親しげに話しかけられている物珍しさに少しだけ注目を集めてしまい、どこか居心地悪く席を立つ。
黙ったまま祐介がいるほうの出入り口に向かうと、ぼそりと呟いた悪態を気にする様子もなく、楽しそうに前向きな相槌を打つ姿は飼い主を出迎える犬のようだ。一部始終を眺めていたクラスメイトたちの頭のなかには人知れず、直紀をご主人と慕う祐介の構図が浮かんでしまった。
「今日は小学校が短縮授業みたいで、弟が早く帰って来るんだよね。だからそっちに行ってもいい?」
「来なくていい。弟と遊んでろ」
「帰って夜ご飯食べたらね」
こうして帰宅する流れでどちらかの部屋に行くと、家に誰もいないのをいいことに、隙あらばキスをしてくるようになった。それに抵抗があったのは初めだけで、次第にじゃれつかれているような気分になり、気が緩むと舌先を軽く噛まれる。
「ね、これからどうするの?」
教えてとささやくように請われて、間近にいる祐介を見た。唾液で濡れた唇を舐めていた彼と至近距離で目が合ってしまい、言いようのない落ち着かなさにぐっと言葉に詰まったあと、ため息をついて肩の力を抜いた。
「……上顎」
「うん?」
「舌で上のほう舐めろ」
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