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第5話
会おうと思えばすぐ近くにいて、異性のように細かく面倒な気を遣う必要もない。そんな短絡的な手軽さもあり、キスに続いて次第に触り合うようになる。
「2年の戸坂ってキミだよねえ。誘えば付き合ってくれるって聞いたんだけど、どうかな?」
「あー、いつでもってわけじゃないんで。今はちょっと」
「今日じゃなくてもいいよっ? 受験がどうとかでみんなピリピリしてて、正直ストレス溜まるんだぁ」
この日は久しぶりに3年生の女子に直紀が引き止められていた。素っ気なく断ってもめげない押しの強さに困っていると、待ち合わせ場所の昇降口に祐介が姿を見せた。
初対面の先輩相手には得意の悪態もつけなくて、廊下の隅でされるがままに迫られている直紀に気付き、わざと空気を読まずに人懐っこい笑顔でこちらに向かってくる。
「お待たせー! ってあれ? 俺来ないほうがよかった?」
「……いや。先輩、俺帰ります」
「んんー、しょうがないなぁ。じゃあまた声かけるね」
こういう誘いとは縁が遠そうな祐介の雰囲気に気が削がれたのか、やっと折れてくれた。ばいばいと手をひらつかせて廊下を歩いていったことにほっとして、どうにか切り抜けられたことに礼を言う。
「助かった」
「ううん、いいよ。行こ」
ふいと顔を逸らした祐介が踵を返す。その際に手首を無遠慮に引かれて、人目を気にしてほどこうにも、がっちりと利き手で掴まれているためびくともしない。
「おい、放せって」
「……だめ」
そう短く言うと、なぜかそれきり喋らなくなった。おかげで祐介に誘導されるまま、歩いて15分ほどの帰り道を手を繋いで帰る羽目になる。
(わけわかんねえ。幼稚園児かよ)
本気でやめさせたいのなら、横から蹴り飛ばすなど方法はある。しかし直紀がそうしないのは祐介の様子がいつもと違うからで、結局彼の部屋まで連れてこられた。
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