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第6話
それから鞄を投げるように置き、強引にキスをしながらベルトを引き抜かれる。下肢に指を這わされて互いに煽られつつ、一度目の行為に及んだあとで、まだ息が整わないうちに正面から抱きついてきた。
「さっきの先輩と付き合うの?」
「……ねーよ」
「ほんとに?」
能天気で明るいはずの男が、しょげたようにぎゅうぎゅうと腕を回してくる。なんなんだと疑問に思いながら気だるく肩に頭を預けると、しばらく間を置いてから緊張した面持ちで言葉を発した。
「俺じゃ、だめ?」
「はあ?」
俯きがちに呟いた声に顔を上げる。以前と同じくふざけているようには聞こえなくて、直紀がなにかを言う前に、矢継ぎ早に畳みかけてきた。
「昔みたいに一緒にいてくれるのがうれしくて、言うのが遅くなったけど、俺はずっと直紀が好き」
「す、好きって」
「俺と付き合ってください!」
また唐突に馬鹿なことを言い出した。いきなりの笑えない冗談は大概にしろと、突き放すために開いた口は、再び閉じて目を逸らしてしまう。
無理なものは無理だとはっきり言えるはずの直紀が口ごもっているのを見て、じっと返事を待っていた祐介があれっと首を傾げた。そしておずおずと尋ねてくる。
「もしかして、……直紀も俺のこと好き?」
「……うるせえ」
「顔真っ赤だよ」
ようやく視線が絡んで、じわじわと赤くなっていく直紀に心から幸せそうに笑う。今更感情を誤魔化すことができず、みっともないと隠そうとした手を握り、ちゅっと唇に軽いキスをした。
「俺だけの恋人になってね。浮気はだめだよ」
「……っ、くそ」
報われない気持ちに振り回されたくなくて、彼女ができたと聞かされたときも平然とした態度を崩さなかったのに、まったく余計なことをしてくれる。素直になれない直紀の態度を見透かしているような祐介が気に食わなくて、悔し紛れに目の前にあった耳を思いきり引っ張った。
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