第2話

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第2話

突拍子もないことをすらすらと捲し立てる純の言っていることが、聞き返さずともわかってしまうのがなんとも複雑だ。 小学生だった大地が親の転勤で引っ越す前、近所の公園で仲良く遊んでくれた三歳年上の男の子が純だったらしい。らしいというのはその子の顔を覚えていないからで、子供ながらに引っ越し先の住所を交換して、年に数回続いた手紙のやり取りがいつ終わったのかも定かではない。 それから高校を卒業して一人暮らしを始めた頃に、最寄り駅のコンビニで話しかけられたことが純との再会のきっかけだった。 「でもさ、玄関壊れそうじゃん。うるさくするとお隣さんにも迷惑だし」 それから紆余曲折あって恋人になった今でも、近所のお兄さんだった彼は大地に対して些か過保護なところがある。ひとまず落ち着いてもらうために注意すると、きょとんと瞬いて首を傾げた。 「大地はドアノブの真ん中が細くなってるの、どうしてか知ってる?」 「え、いや」 「壊すためだよ」 「違うよ!?」 反射的に突っ込んだ大地に冗談とは言わず、にこりと笑って抱きついたまま離れようとしない。首筋にあたる純の髪がくすぐったくて、説得を諦めてお茶を出すからと座るように促す。 「家に来るって連絡だったの? 電話してくれたらよかったのに」 「したよ? しないわけないじゃん」 「……そっか。気付かなかっただけか」 簡素なテーブルにグラスを置いて、ようやく鞄からスマホを手に取った。しかし画面は真っ暗で、電源ボタンを押しても全く反応しない。 残量はあったはずなのにと不思議に思いながら充電器に挿すと、表示されたロック画面を解除してフリーズする。 「着歴あったね」 「でしょ」 不在着信三十六件。SNSの未読通知は他にも溜まっていて正確にはわからないが、スライドすればするほど文字が表示された。 仕事中にマナーモードにしていたことで、大地が気付かないうちに充電が切れたのだろう。なんだか頭が痛くなりそうで、一旦考えることをやめた。とりあえずシャワーを浴びたい。 「軽く汗流してくる。すぐ戻るから待ってて」 「えっ、やだ」 寝汗と冷や汗を吸い、気分的にも重くなったシャツの裾を純が軽く引き留めた。脱衣所へ行こうと背中を向けた大地が振り返ると、勿体なさそうにこちらを見ている。
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