第1話

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第1話

連勤明けでへとへとになって帰宅した深夜。待望の休日を明日に控えた青山大地は、雑に靴を脱ぎ捨てると、着替えもそこそこにベッドに倒れ込んだ。 「……っはぁー。布団、最高。愛した」 大型連休の飲み屋街は目まぐるしいほど忙しく、騒がしい。大地が働いている居酒屋は女性のホールスタッフが多いため、酔っ払って喧嘩を始めた客の仲裁や、酔い潰れた客の対応なども任されてしまう。 そういったトラブルが毎日のように頻繁するわけではないが、揉め事が起きた現場は気が重いし、強い言葉を浴びせられたら単純にへこむ。多分、誰だってそうだ。 (……あ、スマホ見てない。連絡来てたっけ……) 枕に頬を埋めながら、先ほどロッカーで点滅していたスマホの通知を思い出す。部屋の隅に放り投げた鞄を立って拾うのが億劫で、視界が狭くなるごとに、すとんと眠りに落ちていった。 どこか遠くからガタガタと音がする。安心しきった深い睡眠を邪魔されて、気持ちよく二度寝しようとした大地がうとうとしていると、インターホンが連打されて急に現実へ引き戻された。 「う、えっ!? な、なに……はい!はーい!」 うつ伏せになっていたベッドから飛び起きる。身に迫る状況がわからず、何事かと壁に肩をぶつけながら玄関に行くと、ドアノブが壊れそうなほどひどく揺れていた。 悪質なセールスか嫌がらせとしか思えない、明らかに人力で抉じ開けようとする荒さにぎょっとして、両手で内側からドアノブを握る。 「待って待って! います! 起きてます!」 「大地!? よかったぁ、無事だったんだね!?」 まだ寝ぼけた頭で少しずれた返答をし、そこでようやく収まった音と、聞き馴染みがあるドア越しの声にはっと弾かれるようにベッドを振り返った。 必死に視線でスマホを探すとテーブルの下に落ちていた鞄が見えて、一気にどっと冷や汗が出る。バクバクする心臓に息を呑み、チェーンを外して玄関の鍵を開けた。そこには大地と恋人関係にある伊坂純が立っていて、顔を見るなり胸に飛び込んでくる。 「何回連絡しても全然繋がらないから、俺っ、 心配で……! どこぞのモブ女に薬盛られたり地下室に監禁されたんじゃないかって気が気じゃなかったんだよ!? おじさんにお金で買われなかった!?」 「連絡しなかったのは本当にごめん……寝てました、すみません」
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