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ミレーヌは娼婦だが、社交界で人気の高級娼婦だ。
美しい高級娼婦を愛人にするのは一種のステイタスである。
ミレーヌの手は美しく、労働者の手ではなかった。
その点、リーゼは働き者だった。
俺と浮気相手の食事を文句も言わずに用意し、 繕い物も上手かった。
思えば、そこらのメイドより役に立つ女だ。
「うん? メイド……?」
俺は気づいてしまった。
この屋敷にメイドがいないことに。
いや……メイドだけじゃない。
使用人がいない。
俺と同様にミレーヌも気がついたようだ。
「使用人を雇う金がない……」
そういえば、遊ぶ金欲しさに金を湯水のように使ったことを思い出した。
もしや、今までリーゼがなんとかしていたということか?
「そこに金貨があるじゃない」
ミレーヌは名案とばかりに金貨が入った袋を指差した。
俺に投げつけられた金貨。
だが、この金を使ってしまえば、リーゼを取り戻せなくなる。
「この金貨を受け取ったことを知っているのは俺とミレーヌだけだ」
「ええ、そうよ」
俺たちが黙っていれば、金貨のことは誰にも知られない。
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