34 失ったもの ※フレデリック

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「……向こうは俺に心配されたくもないだろう」  ふらりと庭園に出た。  すでに季節は春の終わり、夏の気配がする。   リーゼが世話をしていた畑にいくつか芽が出ていた。  夏に実る作物だろうか。  それがなんの芽なのか、わからないが、手ですくい、鉢に入れる。  以前ならば、手に泥がつくのも不快だったが、もう俺は伯爵ではないのだ。  庭仕事をするような道具ひとつさえも持たない貧乏人。  借金を清算するため、すべて売り払ってしまったのだから。  だが、鉢をひとつだけ持ち出すことを許してほしい。  リーゼが残した芽――小さな鉢をひとつ抱え、生まれ育った伯爵家を後にしたのだった。
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