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◇◇◇◇◇
「くそ! なにが離縁だ!」
顔面に金貨の袋を叩きつけられたあげく、十九歳の小娘に馬鹿にされるとは思わなかった。
「いいじゃないの。あんな平凡な娘。離縁してやれば」
リーゼは美人で胸の大きいミレーヌに比べ、平凡な(まな板胸の)娘だ。
特徴のない茶色の髪と瞳。
ミレーヌは波打つような金の髪を持っている。
そもそもリーゼを気に入ったのはおとなしい娘だったからだ。
ミレーヌと結婚したかったが、彼女は娼婦。
娼婦を正妻になど外聞が悪すぎる。
伯爵たる俺の正妻にできるわけない。
それで、目をつけたのが借金で苦しんでいた貧乏男爵家だ。
男爵にお金をチラつかせると喜んで娘を差し出した。
初めて会ったリーゼは地味なドレスを着ていた。
まあ、手頃なメイド、いや、形だけの妻にするにはちょうどいい――そう思ったわけだ。
「フレデリック様、お顔を冷やしますわ。金貨の痕がなんて痛々しい……」
「ありがとう、ミレーヌ。君はなんて優しい女だ。リーゼとは大違いだな」
ミレーヌは膝枕をし、赤くなった顔を冷やしてくれた。
なんて気が利く女だろう。
リーゼもミレーヌを見習ってほしいものだ。
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