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形から入ってみたけれど…
僕は、今、無性に叫びたい衝動にかられている。
それは、何故かって…。
遡ること、1ヶ月前の話。
小学4年生で、初恋をした僕こと三枝祐司は、近所の公園でツインテールにピンク色のリボンを左右につけたキラキラ女子に恋をしたのだ。
公園で、暴れ馬の如く暴れていた僕。
しかし、その恋は口に出す事がなく終わってしまった。
同い年であった、リボンの君。
名前だけは、変わっていてすぐに覚えれたこまちちゃんだった。
ただ、こまちちゃんに声をかける事が出来なかった暴れ馬。
小学校を卒業して、親の都合で引っ越してしまったのだ。
そして、こまちちゃんとの初恋は終わってしまった。中学に入ってからは、僕はそのアクティブな性格をいかしてクラブ活動に専念していた。
中学三年間、恋のこの字すらない環境で僕は過ごした。
そして、高校生になったのだ。
高校になると落ち着くかな?と少しは期待していたけれど…。
僕は、全く落ち着く気配はなかった。
小学生の頃のような暴れ馬ではなかったけれど、今も、動いていなければ死ぬのかと思う程体を動かしていた。
昔から、僕は静かにする事が大の苦手だった。
大人しく椅子に座り続けてるのが苦痛だから…。
授業中は、常に貧乏ゆすりをしていた。
テストの時になると決まって、先生にそれを怒られてしまうから…。
一生懸命、我慢すると。
今度は、叫びたい衝動にかられるのだ。
結局、僕の中身はあの暴れ馬時代から何も変わっていない事になるわけだ。
話しがそれてしまった。
そうそう僕が何故、今、叫びたい気持ちになっているかと言うと…。
1ヶ前、帰宅途中にある図書館にリボンの君が入って行くのを見たのだ。
あれから、何年も経っているからリボンな君のわけがないとも思ったけれど…。どこをどう見たって、リボンの君でしかなかった。
確証を得たかった僕は、何度も何度も図書館に通って顔を確認した。
そして、昨日、リボンの君の友人が「こまち、ごめんね」と言って現れてくれたお陰で確証を得たわけだった。
あの、暴れ馬時代と違って、僕は今女子と話せるわけだ。
だから、今度は失敗しないぞと意気込んでの今なのだ。
【あー、叫びたい。走りたい。貧乏ゆすりがしたい】
さっきも、言ったけれど僕は大人しく椅子に座っているのが大の苦手だ。
しかし、ここは大人しくしなければいけない場所なのだ。
みんな静かに大人しく座っている。
それを見ていると僕だけ、猿なのではないかと思えて仕方がなかった。
どうしたら、あんな大人しく座り続けられるのだろうか?
こまちちゃん何て、もう一時間は座って何かを読んでいる。
僕は、我慢の限界に達して先ほど立ち上がって館内を徘徊していた。
勿論、こまちちゃんの見える位置だ。
昔から、母親に形から入ればなんとかなるからやりなさいと怒られてきた。だから、何でも形から入った。
しかし、大人しくする事だけは無理だ。
だって、映画館でも貧乏ゆすりか声を出してしまうのだ。
お兄ちゃんは、僕と違って大人しくする事が得意だった。
同じ兄弟でありながら、こうも違うものかと僕はよく落胆していた。
ああ、そうそう。
僕というのも、中学に入ってから形から入ってみたのだ。
同じクラスの楠木勇二君が、兎に角、大人しくて休み時間もじっと席に座っている人だった。
彼を見習えば、もしかしてと思って彼が使っていた僕を使うようになったのだ。
残念ながら、何も変わらないまま今に至っている。
相変わらずこまちちゃんは、本を読んでいた。
僕は、我慢が出来なかった。
いったん外に出て走ってから戻ってくるか?
いやいや、そんな事をしたら汗臭いではないか…。
今日は、やめて帰宅するか?
いやいや、そんな事をしていてはあの時と変わらないではないか…。
我慢して、僕はこまちちゃんが本を読み終わるのを待った。
「あのー、閉館です」
「えっ?」
「閉館です」
「すみません」
待ったのではなく寝ていた。
最悪だ。
せっかく、我慢したのに…。
僕は、起き上がって帰宅した。
でも、これでめげてはいけない。
そう思って、通い続けたけれど…。
僕は、やはり寝てしまっていた。
結局、こまちちゃんに声をかける事は出来ないのか…。
僕は、また今日もやってきていた。
こまちちゃんが、本を読んでいるのを確認した。
もう、駄目だ。絶対、寝る。
静寂の中、叫びたい気持ちを我慢する、動かしたい足を我慢する。
どうする、どうする。
どうにかしなきゃ。
寝ちゃ駄目だ。
我慢だ。
誰を見習う?
僕は、考える。
でも、答えが見つからなくて…。
「あのー、邪魔だしーどけよ」
この静かな図書館という空間に大きな声が響いた。
「えっ?」
「えっ?じゃねーから!そこ、取りたいんだけど…」
どう見たって、真面目でもなさそうな男の子だ。
「あのー、お静かにお願いします」
「わかってるし、いつも静かにしてるだろ?だったら、こいつに言えよ」
「あっ、すみません」
声なんか出してる人がいないから、皆、僕とこいつに注目していた。
僕がのくとそいつは、本を取った。
「あった!これ、借りるから」
そう言って、図書館の人に言った。
容姿に似合わず分厚い本を持って行った。
僕は、その姿を見送りながら…。
あいつだと思った。
静かになって、皆また本を読み出した。
「あ、あのー」
「えっ?」
こまちちゃんが、僕を見つめる。
僕は、声のボリュームを少し下げた。
「よかったら、連絡下さい。じゃあ」
そう言って、こまちちゃんにノートの切れ端を渡してから図書館を出た。
「よっっっしゃぁぁぁあああ」
僕は、でかい声を出していた。
「うっせーな!あっ、さっきのじゃん」
「あっ!」
「名前は?」
「三枝祐司です」
「へー。俺は、的場淳、よろしく」
「よろしく」
僕は、この日から淳と友達になった。
「連絡は?」
「こない」
「そっかー」
淳は、入院してる弟の為に本を図書館に借りにきていると言った。
僕と同じで図書館にいると叫びたくなるらしい。
「初恋は、終わっちゃったか…」
「そうみたいだね」
どうやら僕は、こまちちゃんに振られてしまったようだった。
「じゃあ、帰るわ」
「うん、じゃあな」
僕は、淳に手を振って別れた。
僕は、1ヶ月。
僕は、図書館に通わなかった。
1ヶ月が経ち、何とかもう一度、図書館に行く事を決めた。
やっぱりやめようかな…。振られたんだし。
僕は、図書館に入るのを躊躇っていた。
「あっ、いた」
向こうから、彼女が走って来た。
こまちちゃんだ。
「あの、連絡先」
「はい」
「何回かけても、お婆ちゃんが出るんですが…。共用スマホですか?」
「えっ?」
僕は、驚いた顔をしてこまちちゃんを見つめる。
「番号、見せてもらえる?」
こまちちゃんは、渡した紙を広げてくれた。
「あー、これ汚いけど2なんだよ」
「えっ!3じゃないんですか?」
「ごめん」
僕の言葉に、こまちちゃんは笑った。
「そうだったんですね!こっちこそ間違っててごめんなさい。でも、最近、図書館に来ないから聞けなかったから…」
僕は、その言葉に驚いた顔をした。
心臓が鼓動が、強く叩く。
長い長い沈黙が続く。
そんな沈黙を打ち破ったのは、こまちちゃんだった。
「君は、いつも突然いなくなっちゃうから…」
「私の事なんか覚えてないよね」
何も言わない僕に、こまちちゃんが困った顔をしながら笑った。
僕は、首を横に振った。
「覚えてるの?」
僕は、縦に首を振った。
「突然いなくなっちゃったから、寂しかったんだよ」
こまちちゃんは、そう言って笑った。
ちゃんと言わなきゃ!
僕は、覚悟を決めた。
「あの、僕。小学生の頃から、好きでした。僕と付き合ってもらえませんか?」
「はい」
こまちちゃんは、そう言って笑ってくれた。
「図書館、行こう」
「うん」
でも、僕はやっぱりここは苦手だった。
暫くして、淳が返却に現れた。
僕は、こまちちゃんにちょっとと言うジェスチャーをしてから、淳の元に行った。
図書館に行くのを決めたのは、淳のお陰だった。1ヶ月間、何度も僕に「ちゃんと告白するべきだ」と言ってくれたのだ。
僕は、淳に近づいた。
「来てたの?」
淳は、小さな声でそう言った。
「あのさ、淳…」
僕もまた小さな声で呟いた。
「えぇー」
静かな館内に淳の叫び声が響き渡った。
「しー」
「悪い」
僕の言葉に淳は、そう言って僕達はいったん図書館を出た。
「よかったな!祐司」
「淳のお陰だよ!」
「祐司が、勇気を出したからだって」
「ありがとう」
「いいって、いいって」
僕は、淳に笑っていた。
「あっ!ヤバ。俺、本借りてすぐに行かなきゃ」
「ごめん、ごめん。引き留めて」
「いいって!あっ、そうだ。彼女と付き合えたんだから図書館にはなれろよ」
「うん」
「頑張れ」
そう言って、淳は図書館に戻っていった。僕も、戻っていく。
こまちちゃんの元に行く。
こまちちゃんは、僕を見て立ち上がると近づいてきて小さな声で言った。
「苦手でしょ?外行こう」って言ってくれた。
僕とこまちちゃんは、外に出た。
「ごめん」
僕は、こまちちゃんに謝っていた。
「謝らないでいいよ!君は、昔から走り回ってる人だったでしょ?」
そう言って、こまちちゃんが笑ってくれた。
僕は、この日からこまちちゃんの彼氏になった。
初恋をやっと実らせれたけれど…。図書館には、やっぱりなれなかった。それでも、僕は、今日も君の為に頑張るよ!
叫びたくなりそうな気持ちを押さえながら…。
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