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先代の教え
ジクウたちが住む麟醍寺には、妖魔が度々襲撃に来た。
強大な法力を持つニッコウが守る寺であることが、魔界でも知られるようになったためだ。
最近は若い3人の祓魔師に寺を預けて留守にすることが多くなってきた。
「今日も何人か来たけど、源次さんがいてくれて、助かりました」
最強の法具である天叢雲剣を使いこなしつつある源次は、一目置かれる存在になった。
真言も授けられ、自力で妖魔と戦えるようになったため、周囲の村を警備する「夜回り」を一人で任されるようになっていた。
着物の袖をまくり、木刀を振る源次とアシュラ。
剣術の稽古と足腰の鍛錬を朝晩行い、マントラを練る瞑想、読経を毎朝続けるうちに、少年少女たちは祓魔師としての資質を身につけていく。
妖魔は夜、活発になるため睡眠は昼間とっている。
交代で夜に仮眠を取る日もあった。
「今日の月は赤い ───」
源次が夜空を仰ぐ。
「ジクウなら、大丈夫ですよ」
若い3人の中では突出した法力を持つジクウは、妖魔に恐れられ恨まれるようになっていた。
「いや。
魔界で戦った鬼たちは、想像を越える力を持っていた。
闇雲に身体を鍛え、剣技を磨いても不安が大きくなるばかりでな」
そこへ、ニッコウが帰ってきた。
「お帰りなさいませ。
夕餉にいたしましょう」
アシュラが寺に戻ろうとした。
「少し話がある。
本堂へ行こう」
寺の入り口には立派な門がある。
灰色に煤けた柱と梁、そして壁は長い年月経って神秘的な雰囲気を醸し出す。
本堂の立派な瓦屋根が、月明かりに照らされて青白く煌めいている。
夜の空気がひんやりと頬を撫でる。
脇に回廊と小さな入り口がついた本堂の中は生暖かかった。
アシュラは蝋燭に火を灯した。
3人はかすかな光に神秘的に照らし出される、大日如来像の前で向かい合った。
「先代ジクウ様、つまり大僧正時空大師様と話した。
『決戦は近い』と仰っていた。
魔界にも動きがあったようだ」
単刀直入に言った。
ニッコウは若い祓魔師に、重要な情報をすべて話す。
これからの時代を作るのは若い世代である。
そして、いつ自分が鬼籍に入るかもしれないのだ。
気遣いなどしている暇はない。
「このニッコウの法力でも、手に負えぬほどの妖魔も現れるようになった。
魔界の事情は、大師の方がお詳しい。
今夜はここにいるから、
ジクウと共に、会って来るといい」
大僧正は、最高位の僧である。
若い祓魔師が会いに行くなど異例である。
源次は拳を硬く握り締めた。
「先代ジクウ様と、若いジクウにつながりがあるのですか」
素朴な疑問を投げかけた。
「それも明らかになるだろう」
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