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妖魔の謎
3人は大日如来像へ向かい、正座した。
小高い丘の上にある、祓魔師の総本山の本堂はガランとして静かだった。
ジクウの心には、わだかまりが渦巻いていた。
考えがまとまらないまま宙を見つめていた。
「どうかしたの」
アシュラが声をかけた。
広い本堂に、透き通った音が響き渡る。
「大師に、会いに来たのかい」
視線を動かさないまま、質問には答えずに返した。
「ニッコウ様に薦められてね。
魔界のことを聞いて来るといいって」
ジクウはハッとした。
何か動きがあったのだろうか。
正面に大師が現れ、大日如来像を背に正座する。
「若い祓魔師が、3人揃ったのう。
少し、話をしよう」
近くへ来るよう促した。
大師が法力で辺りを明るく照らした。
麟醍寺よりも遥かに大きく、輝く本尊の前に座ると自分たちが宇宙と対峙したような心持ちになる。
寺は神と向き合い、自分と向き合うためにある。
神を呼ぶ祓魔師は皆、最高神である大日如来の加護を受けている。
いや、森羅万象すべてに通じるからこそ、長年にわたり尊ばれてきたのだ。
ならば、妖魔とは何か。
魔界で妖魔と戦おうとしている、祓魔師とは何か。
本堂に鎮座する像がすべてを知っているのだろうか。
ジクウはそんなことを考えていた。
「飛垣 源次。
ワシは金剛高野山を預かる大僧正、ジクウだ。
このジクウは孫にあたる」
源次はジクウの横顔を、あらためて見た。
戦国の世で、実の祖父と孫を見ること自体珍しかった。
ある者は戦で田畑と家を失い、またある者は肉親を殺され、家族そろって生きている家は少ない。
家があればまだ良い方で、野山を彷徨い石を枕にする者も少なくない。
野盗に襲われ、食べ物もなく餓死する者。
奪われ、殺され、果ては妖魔まで現れる。
動けなくなった老人は生きていけない過酷な世界である。
地獄とは現世のあり様だった。
「誰もが安心して暮らせる世は来るのか……」
源次は呟いていた。
「孫のジクウを、祓魔師に推挙したのはワシだった。
実の孫だからではない。
あるマントラを会得する可能性を感じたからだ」
目を閉じ、大師は床に手を突いて背を向けた。
本尊を見上げ、しばらく黙り込んだ。
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