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炎の妖魔
彼方に、尖った塔が集まったような建物が見えてきた。
魔界の荒野は果てしなく広く、起伏が少ない。
源次が見たことのある地点とはかなり離れているようだった。
突然、炎の塊が目の前に落ちた!
「うっ」
源次は驚きの声を上げ、剣の柄に手をかけた。
だが、大師は落ち着いていた。
「ジクウ……
焔獄様がお会いになるそうだ」
炎の中から、鬼が現れた。
蓬髪で赤い肌。
体躯は大師より一回り大きく、牙が口から覗く。
大師を知っているようだった。
ついてきた3人には気を留めず、また炎に包まれていく。
「出迎え、ご苦労だった。
オーム……」
一瞬辺りが光に包まれた。
気が付くと、扉の前に立っていた。
「参ろうか」
大師が扉を開けると、金剛高野山の本堂ほどもあろうかという広間だった。
奥に大きな椅子があり、段差で高くなっていた。
床には石が敷き詰められ、ひび割れたり穴が空いたりしていた。
中ほどで止まると、腰掛けていた男がこちらを睨んだ。
大きなため息をつくと、大師に言った。
「弱ええな……
こいつが、てめえの後継者か。
鍛え方が足りねえよ」
また一つため息をつく。
「まあ、そう言うな。
ワシも若い頃はこんなもんだったよ。
ちょっとばかり、話を聞かせてやりたい。
魔界のことなら、お主に聞くのが一番だからな」
立ちあがった焔獄は、壁に向かってゆっくり歩き始めた。
「この若い人間はゴミだ。
使い物にならねえよ」
「だがな。
ワシも歳だ。
後継者として選んだ若者たちを、導いてやってはくれまいか」
妖魔である焔獄は、禍々しい雰囲気を持っているが、強い敵意は示さなかった。
顔には無数の皺が見え、かなり高齢のようだ。
「歳は俺もとった。
だが後継者などという話は出てこない。
妖魔は徒党を組みたがらないものだ」
大師は肩をすくめた。
「ならばワシが話をするから、おかしなところがあったら教えてくれ」
また焔獄がため息をついた。
「この焔獄とワシはのう。
旧知の仲で、魔界でも気を許せる仲間だ。
まあ、若い頃はケンカ仲間だったのう」
「魔界は均衡が保たれて、しばらくケンカもしていない。
近頃は事情が違ってきたがな」
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