変人たちの狂詩曲

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   男との生活が長くなれば長くなるだけ、金銭的にも精神的にも落ち着かなくなっていた。  仕送りだけではまかなえず、近くのコンビニでバイトもしなければいけなくなった。人との関わりがあまり得意ではないけれど、深い付き合いさえしなければ何とかなる。たった一回しか会うことのない来客の相手だったら、そんな気負いする必要がないからだ。  ただ、バイト先の従業員との関係だけは、疲弊していた。同年代というだけで、親しげになる人間が多いからだ。いつ死ぬか分からないのに、深い関係を築いて悲しい思いをするのは嫌だった。だから僕は、うわべの付き合いは出来ても、心の中では一線、いやそれ以上の線を引いて遠ざかっていたのだ。  そんな話を男にした時、男はこう言った。 「だったら、俺ならいい友達になれそうだな。死なねーからよ」  僕の中で天変地異が起きた。今、精神的に落ち着かないのはその男の発言にある。初めて親友という存在を得られるかもしれないからだ。  震えていた僕を男は驚きながらも、慰めてくれた。一人で辛かっただろ。これからは俺もいると――  僕はますます男を崇拝し、信頼した。  心から安心して付き合っていける存在が出来た事で、嫌なバイトも踏ん張れる。  男がたまに持って帰ってくるお菓子を渡されただけでも、僕は笑顔になれた。 「お前は純粋で良い奴だな。俺も頑張るからよ」  男が初めて心からの笑顔を見せたことで、僕の中で人生の喜びが生まれる。その感情を知った僕は、もう後戻りが出来なくなっていた。  男に言われるまま、僕はバイトを増やし、男の生活を支えた。 「いつか倍で返すから、楽しみにしとけよ。これも人生の投資ってやつだ」  そう言って、男は僕が渡した五千円札を持って家を出る。それから勝って帰ってくると、男は宣言通りに僕を外食に誘ってくれた。  ファミレスで好きな物を頼んで良いと言われ、僕は嬉しさで涙が出そうになっていた。友達という関係性の人間と、こうして向かい合わせで食事をするというのが久しぶりだったからだ。 「おいおい、感動するとこじゃねーぞ」  男は呆れたようでいて、どこか嬉しそうだった。  僕は喉に詰まった何かを押し流すように、ドリンクバーで汲んだ麦茶に口をつけた。
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