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やっぱり叶わない恋…
夕香が七歳の頃の、九月。
「朝ちゃん、夕ちゃん!いらっしゃい〜。」
「待ってたよ〜!」
夕香と姉・朝香は、母方の祖父母の家で暮らすことになった。
祖父母は笑顔で迎えてくれた。
でも、それが偽物の元気であることは、幼いながら夕香はよくわかっていた。
「夕香。バアバとジイジは、私たちのことを恨んでいるんだよ。だから、注意しなきゃダメ。」
小学六年生の姉・朝香は、夕香にそう教え込んだ。
朝香は、こう考えていた。
自分たちの両親は、自分たちのことを考えていたせいで、運転していた車を建物にぶつけてしまった。
そして死んだ。
だから、祖父母は自分たちを恨んでいる、と。
実際は違った。
祖父母は夕香と朝香を心配して、せめてこの子たちは幸せに生き永らえて欲しいと思い、二人を引き取った。
でも、朝香はその勘違いで、長い間祖父母に冷たくしていた。
夕香は、朝香の言うことは勘違いだと気づいていた。
でも、朝香以外に自分に寄り添ってくれる人間はいない。
だから、朝香に嫌われないように、勘違いを指摘しなかった。
夕香は、祖父母の笑顔は、『本当は娘たちが死んで悲しいけど、孫の手前明るく振る舞っている』からだと思っている。
それは正解だった。
十歳の頃、夕香はついに勘違いを朝香に言った。
朝香は当然、ものすごく驚いた。
祖父母に謝り、夕香にも謝ったが、自分の過ちに耐えきれずに、家を飛び出してクラスメイトの男子の家に駆け込んでしまった。
その男子は……江田作斗。
宇野作斗だ。
この頃から、作斗は朝香と付き合っていたらしい。
付き合いは、あれから十年以上経った今でも続いている。
朝香は作斗と、『妻の苗字を二人とも持つ』という条件のもと結婚し、息子も生まれた。
自分の不幸な生い立ちからもわかるように、夕香の恋は叶わない恋だ。
十年以上の仲である夫を、姉が手放すわけがない。
夕香は、ただ一人で悩んでいた。
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