ラストノート 椿&皐

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 公園に着くと、ライトアップされた桜を見るために、大勢の人が訪れて賑わっていた。  私たちもその中に紛れ、夜桜を見物しながら歩いていた。 「あ、花びら」  彼の頭にそっと落ちて来た花びらを取って見せた。 「椿。ちょっとあっち行こうか」  彼は私の手を引いて、人の群れから少し離れたベンチに腰掛けた。 「……父と話をしようと思う」  突然の告白に、私はどうしたものかと心配になった。が、私の心配をよそに、彼はどこか清々しい様子だった。 「俺は病院を継ぐつもりはないってちゃんと話して来ようと思う」 「……うん」 「帰れる場所を探してここに来て、椿に出会えた。もう逃げずに父と向き合って来るよ」 「……うん」  彼の声は穏やかだった。彼と出会ってまだ一年も経っていないのに、ずっと一緒にいるような、そんな感覚だった。 「椿」  彼が私の名前を呼んでこちらを見た。風に舞う桜の花びらが、季節外れの雪のように見えた。  彼が突然話始めた。 「俺としてはタイミングはいつでも良いんだけどね。だってこの先もこうしているのは変わらないし、喧嘩もちょこちょこしてるけどそれでも可愛くて仕方ないし……出会ってからの時間を埋めるのは、時間をかけてもかけなくても一緒にいることは変わらないから……ね」  彼は小さな箱を服のポケットから取り出して、開いて見せた。 「……サイズはちゃんと、一緒に行って合わせるべきだと思うんだ……」  珍しく彼の声が弱々しい。頬と耳が赤いのは、季節外れの雪のせいかしら。桜の花びらが二枚、小さな空箱の中に舞い降りた。私はお揃いの腕時計を触った。秒針の音よりも、心臓の鼓動が早くて困ってしまった。 「……っ」 「生涯俺の隣にいて下さい。結婚しよう、椿」  弱々しい声だったさっきと違い、彼は真っ直ぐに私を見て芯の通った声で言った。 「皐さんっ」  彼が私を抱き締めた。 「椿、返事を聞かせて」 「生涯隣にいます、あなたの……帰る場所になり、ますっ……」 「俺も、椿の帰る場所になるから……ずっと一緒だよ」 「……うん!」  人混みから離れたベンチでは、桜の花びらが、遠くのライトに反射して、雪のような桜吹雪が乱れ咲いていた。
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