12人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
パルファムタイム
不意に香った、甘く燻ったラズベリーとバニラ。
聞こえるのは自分の心臓が波打つ鼓動と、寸分の狂いもなく刻まれ続ける秒針の音。
私はきっと、期待しないと思っていても期待していたのだと思う。代わり映えのない毎日に彩りを添えてくれる誰かを。
帰り道がわからなくなっても、そっと手を差し伸べてくれる誰かを。
私以外の名前を呼ぶ甘い声の誰かではなく、私の名前を呼ぶ温かい声の誰かを。
永遠と機械的に進むだけの時間だけではない、秒針のように一秒一秒しっかり一緒の時間を刻んでくれる誰かを。
嗚呼。もうどうでもいい。誰か。甘ったるいこの香りを、進み続ける針をどうにかして。
最初のコメントを投稿しよう!