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マリアは昔話をして聞かせる。
「私もずっと強くなりたいと思っていたの。でも、女の身ではどうしようもなくて。男に生まれればよかったと何度も思ったわ」
エリカは驚いて訊ねる。
「お母さまはこんなに女らしいのに? あたしとはぜんぜん違うじゃない」
「そう思うでしょう? でも、剣の腕はお父さまに負けないわよ」
「ああ、それは知っているわ。お父さまが昔はお母さまがものすごく強い剣士だったと言っていたの。でも、信じられないわ」
それもそのはず、マリアは子どもたちの前で一度も剣を握ったことがないし、剣術指導をしたこともないから。
エリカはふと疑問に思って訊ねた。
「お母さまはどうして剣術を辞めてしまったの? お父さまに辞めろと言われたの?」
「いいえ。お父さまはむしろ続けていいと言っていたわ。けれど、別にやりたいことができたのよ」
「やりたいこと?」
エリカがきょとんとした顔で訊ねると、マリアが微笑んで答えた。
「エリカとノエルを育てることよ。あなたたちと一緒にいる時間が、私には剣術よりも何よりも大切なの」
マリアはエリカをぎゅっと抱きしめる。
エリカは「きゃっ」と小さく声を上げた。
しかし、エリカは頬を赤く染めて、マリアの腕のぬくもりに浸りながらにっこりと微笑んだ。
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