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――――――
――……
「紗和~、ほんとに手伝わなくて大丈夫?」
「大丈夫だよ。ありがと桃花」
「和田はなんで手伝わないわけ」
「部活のミーティングだって。しょうがないよ」
日直だからと先生に資料のホチキス止めを頼まれてしまった。まあでも生徒会の量と比べたらなんてことない。
みんなにまた明日ね、と返事をしつつ手は止めずに作業を進めていると。
「紗和。ひとり?」
「皐月」
一度教室を出ていったはずの皐月が戻ってきた。自分の机をあさり教科書を取り出していたから忘れ物だろう。
「ひとりでやってるの?手伝うよ」
「これくらいすぐ終わるから」
「はい、半分かして」
前の席に座り、束の紙をばさっと持っていく。
ずっと笑顔のまま。
「……ね、いいよ」
「何が?」
「私の前では、そのままで」
意味をくみ取った皐月は、少し間をおいて小さく息を吐いた。
空気が変わる。
「そうやって、優しくされると困る」
「優しいとかじゃないよ」
パチ、パチ。ホチキスの音だけが響く。
そんな中、静寂を着信音が裂いた。誰からかなんて、だいだい想像できる。
「美優?……うん、え、今から?……いや、うん。分かった」
電話をきり、またホチキス止めを始める皐月。
「ねえ、いつまで続けるの」
「ホチキス止め?少しで終わるししやってくよ」
「そうじゃなくて」
しっかり目を見つめる。この作業のことを聞いてるんじゃない。それくらいわかるはずだ。
「……、いつまでとか。ないよ」
答えに落胆する。そして皐月はあっという間にやり終えて、『最後まで手伝えなくてごめん』と謝る。
「むしろこんなに手伝ってくれてありがとう。気を付けてね」
「紗和も。気を付けて帰りな」
一緒にいてはくれないのか。皐月はまたスマホを弄りながら教室を出て行った。
ああ、好きな人が振り向いてくれない。
そんな相手に特別な感情をいただいている自分が一番どうしようもないか。
残り僅かな枚数をホチキス止めしながら、不意に窓の外に視線を滑らせると。晴れてるのに雨が降っていて。
あの日も。
皐月が泣いている姿をみた日も、確かこんな天気だった。
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