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 指先がかじかむ。時折笠に積もった雪を払いながら、半ば感覚を失った足を前に出す。口からただ白い煙を吐く。代わりに冷たい外気が肺に入り、心髄まで凍ってしまいそうだ。何もかもが真っ白で、地平線さえ見えない。雪を踏みしめる音すら聞こえなかった。  この寒空の下で生命活動を営む者は最早僕だけだ。その僕でさえ、もうじき脈拍がぴたりと停止してしまうのではないかと思えるほどだ。いや、既に止まっているかもしれない。ただの肉塊が、未練がましく生前の栄華にしがみついているだけなのだ。  生命の多くが厳冬に備えて身を隠す。中には越冬できず死ぬ者もいる。僕もその一人になれたなら、どれほど幸福だっただろう。
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