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 麗らかな陽射しが一身に降り注ぐ。薄衣(うすぎぬ)のような雲がちぎれてはまとまり、丸まっては伸びている。そこへ絶えず桜が舞っている。振り向けば、一本大きな桜の木が佇んでいた。僕は幹に触れた。ごつごつして力強い。僕の目の前を蝶が通り過ぎていった。一匹だけではない。皆、長い冬の寒さからの目覚めを(よろこ)んでいるのだ。木の反対側に回ってみる。僕はそこで足を止めた。背中をぞくぞくと駆け上がるものがあった。  そこに何があっただろう。人間の足だ。僕の額を汗が伝った。掘らなければと焦燥感に駆られた。指先が真っ黒になっても構わず掘った。足しか見えていなかったのが、腿が見え、胸が見え、そして顔が現れた。その時僕の体に起こった震えは最高潮に達していた。現れたのは僕がよく()っている人だった。その人はまだ服を着たままで、安らかに眠っていた。しかし皮膚には皺が刻まれ、幾らか痩せたように見えた。僕はまだ土を掘り続けた。その人の周りを熱心に掘った。それでもその人は動かせなかった。持ち上げられないほど重かったわけではない。なんとその人には、傍らで朗々と咲く桜の木の根がしっかりと絡みついていたのである。  僕はその穏やかな死に顔を見つめた。ぞくぞくと背中を走る痺れが止まらない。春の訪れを歓ぶあまたの生命の中で、それらの犠牲となりながらひっそりと息絶えたその人は、あまりに美しかった。
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