18人が本棚に入れています
本棚に追加
鳴女
混沌とした世界が天と地に分かれし時、天上の高天原に造化三神が現れ、次いで神代七代が現れる。
神代七代の最終組である伊邪那岐命と伊邪那美命夫婦は、高天原の天浮橋に立ち、下界に広がる混沌とした海に天沼矛を降ろし掻き混ぜ、引き上げた矛からしたたる潮で、日本列島を造った。
夫婦は地に下りて、多くの神々を産む。
伊邪那岐・伊邪那美夫婦は、この功に寄り、天上界で確たる地位を築いた。
伊邪那岐は我が子の内より特に優れた三御子に、それぞれの世を統治させることとした。
天上の高天原は天照大御神に、夜の食国は弟・月読命に、海原は末弟・須佐之男命に治めるよう命じた。
天照大御神が治める天上界の高天原には、多くの神々が暮らす。神々の総称は、八百万の神。
天地開闢時に、高天原に成りました造化三神の一神であり、高天原では最古株の神である高御産巣日神は、統治者となった若き天照大御神の相談役を兼ね、実質的に政を担った。
八百万の神は、各々が秀でた分野の神技を持つ。
薬となる植物に詳しい神、鏡や勾玉作りの神、言霊を操る神、祭具を作る神、歌舞音曲の神など多岐にわたる。
鳴女は美しい声を持つ、心の穏やかな女神だった。
一風変わった神技を持っていた。
ほっそりとした体形を鳥に姿を変えて、素早く移動することができた。
統治者として高天原に移り住んだばかりの、若き日の天照大御神は、鳴女に興味を示した。
鳴女は天照大御神のために、変わり身を披露した。
両腕を交差して自らの体を抱きしめ、その腕を大きく広げると、鳴女の腕は翼に変わっていく。
その翼を上下に羽ばたかせると、鳴女の姿は雉に変わった。
見上げる天照大御神の頭上を、円を描くように飛んでから、地上に降りた。
頭を覆うようにゆっくりと翼を持ち上げると、片膝立ちの女神が姿を現した。
天照大御神はそれまで変わり身を見たことがなかったようだ。
鳴女は質問攻めにされた。
「そなたの衣はいったいどうなっているのだ」
鳴女の身に纏う衣が、変わり身に伴って羽毛となり、身体を覆うことを不思議がった。
「この衣は、もともと羽毛を紡ぎ織った布で仕立ててございますので、姿を変える際に、体に同化致します」
「絹の織物ではどうなのだ?」
「脱がねばなりませぬ
」
天照大御神は驚いた表情で、衣の感触を確かめたものだ。
「鳴女よ。そなたの背にワレを乗せて飛んでみてはくれぬか」
と頼まれたこともあった。
「天照大御神の頼み事でありましても、お乗せして飛ぶのは無理でございます」
天照大御神はとても残念そうな表情をしていた。
幾度か天照大御神の訪問を受けた後で、「女官として神殿で仕えることを考えてみてはくれまいか」と打診された。
「天照大御神にお仕えできるとは、光栄でございます」
政の中心である神殿で、天照大御神に仕えることは、とても名誉なことだ。
鳴女は喜んで承諾した。
このようにして、鳴女は天照大御神に仕える女官となり、長い年月を神殿で過ごすことになった。
最初のコメントを投稿しよう!