ゲームスタート

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俺に怖いモノなどない。 俺を恐怖に陥れるモノは、この世には存在しない。 幽霊や亡霊なんて信じてないし、俺はいつだって自分自身が一番好きだから、そんな奴らに興味がないし眼中にない。 「雅人、本当に怖くないのか?」 「あぁ、心霊スポットなんて信じてない。誰かがそう言って人を集めて、話題にしたいだけだろ。幽霊が出るって思っているから、そんな気配を感じるだけだし、そんな幻覚を見るだけだ」 俺はアクセルを踏み込んだ。二人の友達を後部座席に乗せて、心霊トンネルとか呼ばれるトンネルの中へスピードを上げて入り込んでいく。 仄暗い中には、オレンジ色の明かりが並んで点いている。窓も開けていないが、頬に纏わり付いてくるような冷気を感じる。でも、俺は全然怖くはないから、ただアクセルを踏んで車を走らせるだけだ。 「お、おい、あそこにいるの女に見えないか?」 「えっ・・・・・・まさか幽霊?」 「あんなん幻覚だ。俺はこのまま走り抜ける」 「お、おい、やめろ!」 俺は後ろから肩を掴まれながらも、スピードを緩めることなく真っ直ぐに走る。 「あの女、顔が真っ青だ!」 「服が血まみれだ! やっぱり幽霊だ!」 「雅人、やめろって!」 「うわあぁぁぁぁーー!!」 俺はその幻覚を轢くように突っ込むと、真っ白な靄が車の中を通り過ぎていった。一瞬、時が止まったかのような空気感が流れる。目の前に眩い光が映り込むと、車はトンネルの外に出ていて急停止した。 キキーッ!! バックミラーを確認しても、暗いトンネルの中には何もいなかった。 「だから言っただろ? 幽霊なんてい・・・・・」 後部座席の二人は動かない。どうやら怖すぎて失神をしたようだ。本当に情けない奴らだ・・・・・・。 ◆◆ そんな怖がりの友達の一人から「めちゃくちゃ怖いゲームがあるんだ」と言われ、俺はそのゲームを借りてきたのだ。 怖いから見たいのではなく、VRゲームだから借りたようなもんだ。前々からVRというものに興味はあったから。 『限りなく実体験に近い体験が得られる』 本当にこのVRゴーグルを装着するだけで、リアルな体験ができるのか? そこがずっと疑問だった。 「とりあえず、やってみるか」 借りてきたゲーム機に“VRゲーム『殺戮ノ森』”と書かれたソフトを差し込み、ゴーグルを装着してゲームのコントローラーを握った。 久しぶりにドキドキして、コントローラーを握る手のひらにジワリと汗が滲む。 真っ暗闇の視界の中、ぼんやりと映し出された“殺戮ノ森”の文字。それは緑色から鮮やかな赤色に移り変わると、文字から血が溢れ出して画面を赤で汚していく・・・・・・すると、その文字は幽霊みたいにボウッと消えた。これだけですでに気味が悪い。 そして、次に出てきた“GAME START”の文字にカーソルを合わせてボタンを押す。視界がパッと変わると、ガサガサと草を踏む音が耳の中で聞こえた。首を左右に振ると、周りは腐り果てた老木や蔦が垂れ下がった大木が生い茂っているようだ。深い森のような場所だ。ちなみに、青黒い空には紅い満月が不気味に浮かんでいる。 静寂に包まれる森の中。 ひんやりした空気が纏わりつく感覚がする。 普段ならこんな場所、怖くないはずなのに、本当にいる感覚になって心臓が激しく揺さぶられる。これは期待と興奮からくるドキドキか? きっと恐怖感ではないはずだ。 そんなことを思いながら歩き始めると、 『キャァァァァァーーー!!!』 遠くから女の叫び声が聞こえる。 な、なんだっ? ザクッザクッ ザシュッ  ジュルッ ジュルッ ゴックン 奇妙な音が微かに聞こえる・・・・・・何かを刺すような、切り刻むような音。その後に聞こえた何かを呑むような・・・・・・喉に何かが通るような音。 女が何かに殺された? そして、喰われた?  ガサガサガサガサガサガサ  こちらにその“何かが”近付いてくる気配を感じて、ハッと意識をはっきりさせる。 ヤバい! 殺されるっ!  俺はもうゲームなんて事を忘れて、森の中を必死で駆けだしたのだった。
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