十夢

1/1
前へ
/82ページ
次へ

十夢

私は、十夢にグラスを渡した。 「手洗いたい」 「こっち」 私は、洗面所に十夢を連れてきた。十夢は嬉しそうに私を見つめている。 「愛ちゃん、貸して」 そう言って、自分の手と一緒に手を洗ってる。 「何か恥ずかしい」 「可愛い、愛ちゃん」 「もう」 私は、フェイスタオルを十夢に渡した。 「ありがとう」 手を拭いて戻ると、十夢はグラスにビールを注ぎ始めた。 「ピーチの飲む?」 「うん」 十夢は、ピーチのチューハイをグラスに注いでくれた。 「乾杯」 「乾杯」 グラスをカチンと合わせて、飲む。 「いつも、生なの?」 「ビール?」 「違うよ!エッチ」 「あっ!うん」 私は、目を合わせないようにチューハイを飲んだ。 「それって、本当に愛してるのかな?」 私は、立ち上がって小さな小皿を置いた。 「ありがとう」 「窓、開けるね」 少しだけ、窓を開ける。 十夢は、煙草に火をつけてこう言った。 「本当に愛ちゃんの事、愛してるなら避妊するよ」 私は、何も答えられない。 「だって、そうだろ?愛ちゃんが妊娠したらどうするんだよ!責任って、金払うだけじゃないよ」 十夢の言葉に、涙が流れてきた。 「赤ちゃん出来て、一人で育てるなんて大変な事だよ!」 十夢は、煙草を消して私の手を握りしめる。 「従業員で、妊娠して捨てられてシングルで育ててる子がいるんだ。いつも、保育所から呼び出されて、クタクタで帰って、子供のことして、休みの日もゆっくり眠れないって嘆いていた」 私は、十夢を見つめる。 「一人で、赤ちゃん育てるのは大変なんだよ!あの人は、それをわかってる?俺は、わかってるよ!従業員を見てるから、一人じゃなかったら彼女はもっと休めるって言ってたよ」 十夢は、私の涙を拭ってくれる。 「男は、無責任な事しちゃダメなんだよ!責任とるのは、金だけじゃないよ。とれないなら、避妊ちゃんとしなきゃいけないんだよ!」 「十夢」 「傷つくのは、女の子なんだよ!愛ちゃん」 私は、涙が止められなかった。 「愛ちゃん、あの人は愛ちゃんを愛してくれてる?」 そう言って、十夢は私の頭を優しく撫でる。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加