あなたがくれる幸運は暖かい

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 双子の姉って損だ。  同時に生まれてきたのに、それが少し先だっただけで「お姉ちゃん」になってしまうし、同時に生まれてきたのに、「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」なんて言葉を聞かされて育つことになるのだ。 「お姉ちゃん、待ってよ」  莉緒が後ろから呼びかけるので、仕方なく振り向いて待ってやる。私とお揃いの振袖姿が、朝に降り積もった雪に苦労しながら近づいて来る。色だけが違う振袖は、私が青、莉緒のが桃色。おめでたい柄がたくさん刺繍されていて、つやつやの布は昼の光に輝いている。  私も桃色がよかった。 「パパとママも来られればよかったのにね」 「そうだね」  莉緒とふたりきりなんて。  当の莉緒は私の気持ちなんて知らぬ気に、どこかからかふたり分の甘酒をもらって来てご機嫌な様子だ。 「でも、お姉ちゃんとふたりきりでお出かけなんて、嬉しいな。大学入ってからバラバラなこと多くなっちゃったし。……髪型も、お姉ちゃん、急に変えちゃうし」  高校まで、両親の希望に沿ってふたりで揃えていたロングヘアーを、誰にも言わずにばっさり切ったのは、大学に入学してすぐのこと。あの日、玄関で迎えてくれた莉緒の、驚いた顔が今でも忘れられない。 「髪型なんて、好きにしていいでしょ」 「うん、もちろんだよ。お姉ちゃんはどんな髪型でも似合うし」  同じ顔のくせに、自分はまだロングのくせに、そんなことを言うのだ。  初詣の列は長く、鳥居の辺りから、遅々として進まない。莉緒がくれた甘酒の紙コップだけが救いだ。モコモコのブーツを履いていても、そろそろ足先が冷えてきた。 「お姉ちゃん、カイロどうぞ」 「……ありがとう」  莉緒は用意がいい。それは、小さい頃からだ。私が転んですり傷を作ると、莉緒がすぐに絆創膏を差し出してくれた。学校で筆入れを忘れて困っているときに、なぜだかそれを察知して、離れた教室まで予備の鉛筆を届けてくれた。 『どっちがお姉ちゃんだか分からないね』  そんなことを、周りの人たちからよく言われた。  私が「お姉ちゃん」なのは、私が望んだことじゃないのに。 「お姉ちゃん、はい。五円玉」  甘酒もいつの間にか冷え切ってしまって、ぼーっとしている間に、列がだいぶ進んだようだった。賽銭箱が見えてくる。 「お賽銭くらい、持ってきてる」 「でも、もう私出しちゃったし。はい」  半ば無理やり握らされた五円玉を賽銭箱に振り入れて、神様に願い事をする。  さっさと終わらせて石段を降り始めて、隣に莉緒がいないことに気がついた。見ると、まだ何か願い事をしているようだった。 「莉緒、置いてく」 「あっ! ごめん、待って!」  慌てて追いついた莉緒が転びそうになる。咄嗟に出した私の腕を取ってことなきを得て、莉緒はそのまま、私にしがみつくように歩き出した。 「莉緒、重い」 「えへへ」  答えになってない。  とにかく、これで莉緒との初詣も終わりだ。さっさと帰って面倒な振袖も脱いで、もうひと眠りしよう。  そう思っていたら、莉緒がぴたりと歩みを止めた。 「お姉ちゃん、おみくじ引かなきゃ」 「私はいい。先に帰ってるから、好きにしたら」 「そんなこと言わずに、一緒に引こうよ。初詣に来ておみくじ引かずに帰るなんて、もったいないよ」  そう言われれば、そんな気もしてくる。出がけに見ていた友人のインスタにも、初詣で引いたおみくじの写真が楽し気に載っていたっけ。 「じゃあさっさと引いて、さっさと帰ろ。寒い」 「うん!」  満面の笑みで頷いた莉緒は、私の手を引いて、おみくじコーナーへ向かった。可愛らしいアクセサリーがついてくるものや七福神の根付がついてくるものなど、多種多様だ。その中から、莉緒はごくごくシンプルな、昔ながらのおみくじを選んだ。 「楽しみだね!」  莉緒は無邪気に箱から畳まれた紙片を取り出す。私も続けて取り出して、特に合わせたわけでもないのに、ふたり同時に開いた。 「大吉だ! やったー!」 「……大凶」  ああ、もう。  こんな物、ちょっとしたお遊びみたいなものなのに。隣に莉緒の大吉が並んでいるせいで、お遊びだなんて片付けられなくなってしまう。  思えばいつもこうだった。ふたりで買ったアイスはいつも莉緒が当たりを引くし、ふたりで飼ったウサギは莉緒にばかり懐いたし、ふたりで好きになった男の子は莉緒にばかり優しくしていたものだ。  私はいつも、損ばかりしている。 「じゃあお姉ちゃん、私のと交換!」 「へ?」  素早く、私の手から大凶のおみくじが引き抜かれる。代わりに、莉緒の大吉のおみくじを手渡される。思わず受け取ってしまって、莉緒の顔を凝視する。  私とそっくり同じなのに、私とは全然違う顔を。 「あんた、せっかく大吉なのに……」 「私はお姉ちゃんと初詣に来ておみくじ引けただけで超超ラッキーだからね! 大凶なんて意味ないから!」  でもお姉ちゃんが大凶なのはなんかいやだから、と続ける声に、頬が熱くなる。思えば、いつもそうだった。莉緒が当たりを引き当てたアイスは半分に分けてくれたし、可愛がっていたウサギに餌をやるときは譲ってくれた。ふたりで好きになった男の子が莉緒にばかり優しくするのを、莉緒はいやがって縁を切ってしまった。 「……なんで?」  口から漏れた心の声に、莉緒は首を傾げる。 「なんでって。私、お姉ちゃん大好きだから」  だから、それがなんでなのかが分からないというのに。  けれど、莉緒があまりに当然のように言うので、それ以上追及できなかった。ただ、受け取った大吉を懐にしまう。  私って損だ。  莉緒を嫌いになるなんてこと、絶対にできないのだから。
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