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高校1年の春休み、いとこの家に遊びに行った。いとこの家を出て、まだ家に帰りたくない気分だったのでその町の図書館に行ってみることにした。
この町の図書館は私が住んでいる町の図書館よりも小さく、外観も古びた感じだ。
目の前には公園があった。桜も満開に咲いていて、桜の木の下には、ベンチも設置されていた。雰囲気が良い。このベンチで、図書館で借りた本を読んだら最高だろう。
そんなことを思いながら、公園を眺めていると制服を着た高校生らしき男子と女子がベンチに座っていた。
男子は彼だった。
公園には彼と彼女しかおらず、図書館の中の様に静かだった。彼と彼女は何かを話していた。見ているだけで彼と彼女がお互いを信頼していることがわかった。そこは、まるで2人だけの世界のようだった。
何かを言われなくてもわかる。私の恋は何もできずに終わった。
私はしばらくそこに立ち続けた。せめて一度だけでも彼が私を見てほしかった。しかし、そんな思いは叶うことなく、彼は立ち上がり彼女と去っていった。
のどに何かがつまったような感じがした。それは涙が出てくる合図だ。私はあわてて図書館の中に入った。
図書館はいつものように静かだ。その静けさが私を守ってくれているように感じた。
思えば、彼の笑顔を見たのははじめてだった。彼女の隣にいた彼は本当に幸せそうだった。その時、悲しさではない感情が芽生える。
図書館の中で呼吸を整えた後、外に出て彼と彼女が座っていたベンチに座った。
何もできなかった。でも、彼に恋をしたことは間違ってはいなかった。けして、無駄な行為ではなかった。
「ありがとう」
自然と言葉が出てきた。その時、風が吹く。頬が冷たい。
桜が散る。それは私を励ましてくれているようだった。
静けさの中で恋をした。彼は私に新しい感情を贈ってくれた。
その大切な感情を私は生涯、大切にしたい。そう決意して立ち上がる。
散る花びらを1枚つかみ、先ほどと少し変わって見える景色の中を歩き出した。
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