5人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「ねえ、おかあさん」
淳子はふと思い出した風に尋ねる。
「どうしてドイツには西とか東とかつけるの?」
テレビでも大人たちの話でも“西ドイツ”“東ドイツ”とまるでお相撲のように二つのドイツが出てくるのだ。
「今のドイツは西と東で別の国だから」
お母さんはさっきアニメ絵本の「かぐや姫」を目にした後と同じ苦いものの混ざった笑いを浮かべて答える。
「同じドイツなのに西と東で別なの?」
それならば、なぜ“ドイツ”と同じ名前を使うのだろう。
「戦争で二つに分かれてしまったの」
淑子おばさんが代わりに答えて続けた。
「お隣の朝鮮も今は北朝鮮と南の韓国に分かれてるし、中国は大きな本土と香港とマカオと台湾に分かれてる」
「ずいぶんたくさんわかれてるんだね」
六歳の頭にはただ世界には沢山の国があるのだとしか分からない。
「みんななかよくいっしょにいればいいのに」
お母さんと淑子おばさんの話すのを見れば、国が分かれてしまうのは何だか寂しいことなのだと感じる。
「そう出来ればいいんだけどね」
お母さんは頷いて答えつつテーブルの下から出したティッシュで娘の唇に着いたチョコレートを拭った。
淑子おばさんは紅茶のまだ半分以上残ったカップを見下して呟く。
「でも、一度バラバラに分かれて長い時間が経ってしまうと、また仲良く一緒になるのはとても難しいんだよ」
(了)
最初のコメントを投稿しよう!