国境線《ボーダーライン》

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「ねえ、おかあさん」  淳子はふと思い出した風に尋ねる。 「どうしてドイツには西とか東とかつけるの?」  テレビでも大人たちの話でも“西ドイツ”“東ドイツ”とまるでお相撲(すもう)のように二つのドイツが出てくるのだ。 「今のドイツは西と東で別の国だから」  お母さんはさっきアニメ絵本の「かぐや姫」を目にした後と同じ苦いものの混ざった笑いを浮かべて答える。 「同じドイツなのに西と東で別なの?」  それならば、なぜ“ドイツ”と同じ名前を使うのだろう。 「戦争で二つに分かれてしまったの」  淑子おばさんが代わりに答えて続けた。 「お隣の朝鮮も今は北朝鮮と南の韓国に分かれてるし、中国は大きな本土と香港(ホンコン)とマカオと台湾に分かれてる」 「ずいぶんたくさんわかれてるんだね」  六歳の頭にはただ世界には沢山の国があるのだとしか分からない。 「みんななかよくいっしょにいればいいのに」  お母さんと淑子おばさんの話すのを見れば、国が分かれてしまうのは何だか寂しいことなのだと感じる。 「そう出来ればいいんだけどね」  お母さんは頷いて答えつつテーブルの下から出したティッシュで娘の唇に着いたチョコレートを拭った。  淑子おばさんは紅茶のまだ半分以上残ったカップを見下して呟く。 「でも、一度バラバラに分かれて長い時間が経ってしまうと、また仲良く一緒になるのはとても難しいんだよ」 (了)   
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