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三年前、奏太は雪が谷大塚の都立高校に通う二年生だった。
息を吸うだけで喉がひりつくほどの炎天下で、網の上で蝉を炙るようにジージーうるさい夏休みのことだった。
ゴリゴリゴリゴリ
耳奥の骨をドリルで穿つような音がした。
工事現場並みの騒音が脳内で暴れ回り、たまらず奏太は口を大きく開けた。
音の嵩が増幅して破裂しそうだった。
叫喚する声も重なって、音量は狂気的に上昇した。
暗くて何も見えなかった。
いきなり止んだ。
キーンという耳鳴りの後、圧倒的静けさの中に放り込まれ世界から遮断された。
その後に起こったことは不明なまま。
恐怖だけを残し、気づいたら家の布団に手足を投げ出していた。
刻まれたのは肌が粟立つ残響と痛み。
だから奏太は黙し、封じることにしたのだ。
家を侵す者について。
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