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「え?」
背筋を冷気が伝い総毛立つ。
少年の指につられて斜め後ろを振り返った。
道を教えているつもりなのか。
空の色と背後の情景に変化はない。
再び視線を前に戻す。
肌を粟立たせる悪寒は続いていた。
相手の出方を待って対峙する。
荒い息を幾つか吐き出し、待つことに焦れて声を発しようとしたとき少年が動いた。
人差し指で宙を突いたまま、他の四指がゆっくりほどけていく。
掌という花が開かれて、奏太を制するように突き出された。
少年の行為が奏太の神経を逆撫でした。
翻弄されまいと身体が前に出る。
緘黙かと疑ったが、態度から見下すような圧を感じた。
自分の手の大きさの半分しかない手に負けたくない。
「そこをどけよ」
止めるなら突き飛ばしてやろうと考えた。
暑い。
早く家に。
冷水で潤したい。
乾いた唇から迸る一歩手前まで願望が込み上げる。
風の気配がない。
耳を掠める音も絶えていた。
少年の腕が下がると同時にグレーのサンダル履きの脚がずんずん前進してくる。
将棋の盤なら、どちらの歩が取られるのだろうかと考えた。
サアッと風が吹いた。
閉じていた空間に切れ目が生じたようなタイミングだった。
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