隙間にいる

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 奏太は気づいてしまった。  サンダルは微かに地面に接していなかった。  一気に全身が冷やされた。  新たに吹き出す汗も冷たかった。  奏太は後ろに下がろうとした。  後退した分だけサンダル履きの脚が迫る。  慌てて向きを変えようとしたら、肩が捻れた状態ではまって身動きできなくなった。   「ぐぎぎぎぃ」  歯を食い縛り力を込めても抜け出せない。  首筋の血管が膨れて汗が滝のように流れ落ちた。  首の力で引き抜こうとして、筋を違えて激痛が走る。  (もが)いてすぐに根が尽きた。   隙間に挟まったまま手足が垂れる。  圧死して干からびた死骸のように不様だった。  汗まじりの涙が滲む。  耳の近くに気配が迫った。   ゴリゴリゴリゴリ  ドリルを耳奥に突っ込み、左右を繋ぐ道を作ろうとするような音だった。  密閉された脳内で増幅していく。  奏太は叫んだ。  自身の絶叫が騒音に重なり脳が破裂しそうになった。    ありふれた日常が歪み崩壊する音だった。    身体と逆向きに滑稽に捻れた奏太の顔の上に、少年の顔が被さる。  近すぎて何も見えない。  逆光で目も鼻も口も塗り潰されていた。  それとも、元から何も無かったのかもしれない。  騒音が止み、静けさの中から浮上する。 「オマエノカゾクモラウ」    キーンと耳鳴りがして暗闇に放り込まれた。  網膜に焼き付いた最後の記憶は仰向けで干からびた蝉の死体だった。  世界と遮断され、気付いたら家の布団の上にいた。    
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