隙間にいる

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◇◇◇  あの夏の日のあと暫くして両親を事故で亡くし、奏太は文子と二人で暮らすことになった。  親戚と暮らすか施設に預けるという話も出たが、幸い記憶が怪しいくらいでそんなに手は掛からない。  文子は他はぼんやりしているのに、永島くんについては能弁だった。  奏太は家事をしながら文子の昔話を聞き流していた。    患う前、永島くんは浴槽で溺れて亡くなったと語っていた。   「でも、いつも薄汚れていたの。みんな言ってた。お風呂入ってないんだって。男子にイジめられてたのよ。臭いって。なのに……」  口調から死因について不信感を抱いているのが伝わった。  文子が最後に永島くんを見たのは子供たちが近道として利用していた住宅街の隙間だったという。 「サンダルが片方脱げて下に落ちてたの。永島くんは二階の窓からぶら下がってブラブラ揺れて遊んでるように見えたのよ。逆光で良く見えなくて。何してるの?って聞いたけど返事はなくて。蝉の声がうるさいから聞こえないのかなってバイバイしたの」  翌日、永島くんは浴槽で溺れて死んだと担任が告げた。  永島くんがぶら下がっていたこと、死因に対する違和感を文子は心の奥に封印して語らなかった。  それを大人達に言えば面倒が起こりそうな予感があったからだそうだ。  
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