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奏太が高校に通っているころは文子の頭はまだしっかりしていた。
卓球部の練習が午前で終わり、夏期講習に向かうところだった。
「暑い。あちいーー」
その日は最高気温36℃という猛暑日で、何も遮るもののない日照りが続く道は熱したフライパンのようだった。
学校を出てすぐに買ったペットボトルの水はぬるくなる前に三分の二以上も量を減らしていた。
歩くだけで息が切れ、すぐに水が欲しくなる。
早くクーラーが効いた部屋に駆け込みたい。
遠回りになる大通りを避け、住宅街を抜けようと考えた。
蝉の声と競って暑いという絶叫が頭の中でわんわん巡っていた。
双子のような外観の家が続き苦痛が倍増する。
似たような瓦屋根。
ブロックの囲みに悲しいくらい嵌まる、庭という余地の乏しい家。
小さな国土に相応しい一軒家ばかりの住宅街は迷路のように入り組んでいた。
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