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2話
葬式には何度か参列したことがあったが、遺影を見るたびに僕は不思議な気持ちになる。
生きていた人がこの世から居なくなるというのは自然な事なのに、まるで現実離れしたような、あの世とこの世が混在しているような感覚に陥ってしまうのが僕は苦手だった。
華恋の遺影にも、同じことを感じさせられた。
先週まで生きていたのに。
体は棺桶の中にあるのに華恋はこの世にいない。
頭では分かっているのに、心はまだ華恋を失ったことを受け入れることができずにいた。
だから悲しみや損失感等感じることはなかった。
僕の心はなくなってしまったかのように、無だった。
「未来くん?」
ぼんやりとしていた僕は名前を呼ばれて我に返る。
ゆっくりと重たい体を声の方へ向けるとそこには華恋の母親が立っていた。
会うのはこれで二度目だ。
初めてあったのは華恋のお見舞いに行ったときだ。
あの時と比べて老けたように見えるのは気の所為だろうか。
「こんにちは、お久しぶりです。この度は・・」
お決まりの挨拶をしようとしたところで遮られる。
「いいのよ、堅苦しくしないで。
未来君今日はありがとうね、華恋も喜んでると思うわ」
そういって微笑んだお母さんの目は笑っていなかった。
無理して作り笑いをしているのが痛々しく見えた。
「喜んでくれているのでしょうか?
僕は・・後悔しています」
「後悔?」
「はい、華恋さんと最後にあったのは5日前の病室でした。彼女は僕に別れてほしいとお願いしたんです。けれど僕は華恋さんの最後の願いを聞かず病室を飛び出してしまったんです。そのまま会えずにお別れになってしまいました」
すると華恋の母はそう、と一言だけ言った。
「これ、華恋が最後に書いた手紙なんだけど、誰宛とは書いてなくて中身を見ることができずに持っていたの。もしかしたら未来君に書いたものかもしれないわ。良かったら読んでくれない?」
「え、でも僕宛じゃないかもしれないんじゃ」
「あなたが後悔していたように華恋も心残りがあったのかもしれない。華恋は未来くんの事が大好きだった。そんな彼女が最後の想いを残すとしたらあなたしかいないと思うの」
僕は少し躊躇ったが、華恋が僕へ何かを残してくれているとしたらその気持ちを知り、大事に心にしまっておかなければならないと思い、受け取ることにした。
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