影の功労

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影の功労

「あたしは智子の作品をずっと読んできた」葵が改まった口調で言った。 「だから思う。智子の作品が本になって、書店に並ぶところを見たいって。  智子はさっき、素人の本なんて買う人いないって言ったけど、そんなことわかんないよね? 誰かがたまたま智子の本を書店で見かけて、興味持って買ってくれる可能性だってあるじゃん? で、その人が作品を気に入って口コミで評判広がったら、本当に作家としてデビューできるかもしれないよね?  あたしは智子に作家になってほしいし、自費出版でその可能性が広がるなら、試してみてもいいと思うんだ。もちろんお金出すのはあたしじゃないから、無理にはとは言えないけどさ」 「葵……」  智子は感じ入ったように呟いた。葵は本気で自分を応援してくれている。悩みに寄り添うだけでなく、一人のファンとして、自分が作家になることを心から願ってくれている。これほどできた友人がいるだろうか。 「ね、智子自身の気持ちはどうなの? 自分の本、出してみたいって気持ちはないの?」  葵が問いかけた。智子は視線を落として考え込んだ。  どうなのだろう。最初に自費出版の案内を受けたとき、高揚感を覚えたのは事実だ。自分の作品に表紙や帯が付いて、手に取れる形でこの世に生まれる。たとえ店の片隅であったとしても、プロの本と同じように書店に並び、人目に触れる機会を持てる。それは確かに抗いがたい魅力ではあった。
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