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「そりゃ出したい気持ちはあるよ。実際、自費出版がきっかけでデビューした作家も何人かいるし。でもあたし、自分がその中の一人になれるとは思わないんだよね」
「どうして?」
「だって都合よすぎるじゃん? 自分の出した本が売れて有名になるなんて、ただの夢物語としか思えないし、出版社の口車に乗せられてるだけじゃないかって気がする」
「まぁ、確かに向こうは商売だけど……。でも、声かけられたってことは、出版する価値があるって認めてもらえた証拠じゃないの? せっかく出すなら向こうも売りたいだろうし、誰にでも声かけてるわけじゃないと思うけど」
「うーん、でもそれなら何で選考に落ちたんだろ? 本当に出版したいって思ってるんだったら、最初から選考に通すはずだよね? それが落選したってことは、出しても売れないって判断されたんだと思うんだけど」
「どうなんだろ。あたしも賞のことはよくわかんないけど、単に編集者の好みに合わなかった可能性もあるんじゃない? 落選したからって、智子の作品が面白くなかったとは限らないと思うんだ。実際、サイトでも読んでくれてる人はいるんだからさ、そこまで自分否定することないんじゃない?」
智子は何だか胸が熱くなってきた。葵は言葉を尽くして自分の作品に価値があることを伝えようとしてくれている。これだけ熱心に応援してくれている友人――いや読者がいるのだから、その期待に応えたいという気持ちはある。
だがその一方で、どうしても躊躇する気持ちがあるのも事実だった。単に金額の問題ではない。もし自費出版をして、読者に直に作品を届ける機会を得て、それでも全く売れないという現実を目の当たりにしたら、自分には作家としての資質がないという現実を突きつけられる気がしたからだ。
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