影の功労

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「……そうだね。ありがとう、いっぱい励ましてくれて」智子が目を細めて言った。 「葵があたしのこと応援してくれるのは本当に嬉しいし、あたし自身、可能性を試してみたいって気持ちもある。でも、やっぱりもうちょっと考えさせてもらってもいいかな? 人生の一大イベントみたいなものだし、簡単には結論出せなくて」 「もちろん」葵はあっさりと頷いた。 「あたしは部外者だから好き勝手なこと言えるだけで、最終的にお金出すのは智子だもんね。100万円ってやっぱり大きいし、迷うのは当然だと思う。  だからあたしだけじゃなくて、いろんな人の意見聞いて決めればいいよ。どっちを選んでも間違いじゃないし、智子が後悔しないことが一番大事だからね」  そう言って微笑む葵を見て、智子は何だか泣きそうになってきた。自分の意見を押しつけるのではなく、智子の迷いも葛藤も全て理解した上で、それでも最後まで味方でいてくれる。智子は改めて、自分がいかにこの友人に支えられてきたかを知った。 「……ありがとう。あたし、葵が友達で本当によかった」  智子は泣き笑いを浮かべて囁いた。葵も照れたような笑みを返す。雑多なお喋りの飛び交う店内で、二人の座るテーブルだけが、心地よい理解と優しい沈黙に包まれている。    葵は自分には過ぎた友人だ。慈愛と真心を持って自分に寄り添い、献身と誠意を持って自分を後押ししてくれている。  もし、葵がこの先深刻な悩みを抱えることがあったら、今度は自分が力になろうと智子は決意した。
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