高揚と落胆

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 急いで家に入り、鞄を放り出して封を開ける。まさか選考結果が覆ったなんてことはないだろうが、それでも中身を確かめずにはいられない。智子は恐る恐る文書を取り出して見たが、文書の表題を見た瞬間に顔をしかめた。 「自費出版のご案内……?」  本文に視線を落として内容を確認する。何でも、文栄社は最近になって自費出版事業を始めたらしく、新人賞に応募した作者に案内を出しているのだという。候補作品は編集部で厳選しているため、ぜひとも前向きに検討されたい……。そんなことがつらつらと書かれていた。  文書を最後まで読み終えた後、智子は頭からもう1回読み直した。内容が思い違いではないことを確かめた後、困惑した顔で天井を仰ぐ。  自費出版。文字通り、作者が自分で費用を出して作品を出版する方法だ。自分の作品がその候補作として選ばれたという事実をどう受け止めればいいのだろう。編集者が作品に価値を見出してくれたと好意的に解釈してよいのだろうか。それとも、編集部で厳選したというのはセールストークに過ぎず、実際は賞に落選した全員に案内しているのだろうか。そんな懐疑的な考えが頭をもたげ、智子はその誘いに飛びつくことができなかった。    とはいえ、案内を受けたことで心が揺らいだのも事実だ。智子はしばらく考えた後、案内文書に記載されたアドレスにメールを送ることにした。出版を承諾するわけではなく、まずは詳しい話を聞こうと考えたのだ。
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