高揚と落胆

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 智子はドキドキしながら封筒を開けた。果たしていくらかかるのだろう。夏のボーナスも入ったことだし、2、30万円くらいなら出してもいいけど……。  だが、見積書に書かれた金額を見た途端、智子の期待は見事に裏切られることになった。 『999,900円』  智子はしばらくその金額から目を離せなかった。ほぼ100万円。智子の予想よりも遙かに高い金額がそこに記載されていた。しかも提示された部数は300冊。たった300冊のために、車を買えるほどの金額を出せというのか。智子は最初、自分が詐欺を受けているのではないかと思った。  ただ、その後ネットで調べたところ、自費出版の金額が高いのは事実のようだった。編集、流通、宣伝、人件費、保管費用など、諸々の金額を合算するとどうしてもこのくらいの金額になるらしい。  自分がふっかけられているわけではないことは理解できたが、それでも智子は落胆を禁じ得なかった。出版に向けて膨らんでいた気持ちが、瞬く間に萎んでいくのを感じる。  正直出せない金額ではない。大卒で就職して今年で6年目。一人暮らしではあるが外食はせず、趣味にお金をかけることもない。だから必然的に貯金は増えており、100万を出したとしても家計に致命的なダメージはない。  でも、それだけの大枚を叩いたところで、売れる保障などどこにもないのだ。これが10万20万なら記念として割り切ることもできるが、今回は桁が違う。  智子は深々とため息をつくと、同封文書を見もせずに見積書を床に放り投げた。
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