第一話

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 今日は、学校の最寄りの停留所・大蔵高校前を通るバスがなかなか来ない。  ヤバっ、もうこんな時間! とっさに、若葉車庫が終点のバスに乗ろうと決めた。  若葉車庫はここから学校への道すがらにある。わたしが通う大蔵高校の生徒はよく利用してるらしいけど。もっと学校に近い所に大蔵高校前っていう停留所があるから、わざわざあそこまで足を伸ばしたことはなかった。  若葉車庫行きのバスに乗りこみ、わたしは車内の異様な空気に立ちすくんだ。  バスが動き出す。わたしはあわてて近くの空席にすべりこんだ。  シーンと静まった車内。次の停留所の名前を告げる、録音アナウンスの無機質な音が、むなしく響いている。  運転手による注意喚起もない、突然の停車。立っていた、会社員とおぼしき女性がよろめくのが見えた。  今日のバスは、いつもとちがう。  行き先の問題じゃなくて、なんというか、雰囲気が。  静かなのはいつもどおり。けど、いつもみたいな、あったかくておだやかな感じじゃないんだ。  いつもは窓でさえぎられてる、朝の街のあわただしさ。それが、じんわりと染みこんできてるみたい。  冬でもないのに、空気がひんやりとしている。  なんだかピリピリしてて、居心地が悪い。  この雰囲気の発生源は、おそらく運転席だ。直感的に、そう思った。  下車する時、定期券を機械にかざしながら、運転手さんの顔をそっとのぞき見る。 「うわ……」  整った、とがった美貌の若いお兄さん。  20代前半くらいかな。 わたしの存在なんてガン無視で、眉間にしわを刻んでバスの進行方向をじっと見すえている。それがやけに絵になっていた。  言葉を発することができないままバスを降りると、すぐさま背後でドアの閉まる音。まるで、閉め出されたみたい。  こおりついているうちに、バスは車庫の奥に吸いこまれていった。  驚きがうすれて冷静になっていくにつれ、怒りがわきあがってくる。  なんなの、あの運転手! 愛想なし、客に対する配慮も皆無! 顔がいいからって、調子にのってるんじゃない!?  ああもう、朝からイヤな思いしちゃった。
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