第三話

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 土曜日だけど、わたしは登校していた。  わたしの通う高校では、こういうことがよくある。進学校だから、土日に模試を受けたり、夏休み中に夏期講習とやらを受けたりしないといけないんだ。  ただし、今日はそういうのじゃない。秋の大会にそなえて、部活をするんだ。  放送の大会は、朗読部門とアナウンス部門に分かれてる。わたしが挑戦するのはアナウンス部門。自作の原稿を読みあげて、「伝える力」を競うの。  出場するには、学校の誰かに取材して、原稿を作ることから始めなきゃいけない。だから、大会のずっと前から練習以外の『準備』が必要なんだ。  文章はだいたいできた。今日は、それを顧問に添削してもらうつもり。  バスに乗ると、5日連続でもはや慣れてしまった気配。  運転席が見える位置に陣取る。運転席には、不本意ながら見慣れてしまった顔。  ホント、偶然ってすごいね。思わず半眼になる。 「あのう」  すぐそこで声がして、見れば、高齢の女性が車外から運転席の方をのぞきこんでいた。 「このバスは、土津に停まるんですかねえ」  林田という運転手は 「……」  いつものごとくガン無視。時が止まったように前方へ顔を向けて、微動だにしない。 「ええっと……」  困っている女性を見かねて 「このバスは若葉車庫行きなので、土津方面には行きませんね。15番か61番に乗れば確実だと思いますよ」  助け舟を出す。  女性は、はっとわたしに目を向け、 「そうですか。ありがとうねえ、おじょうさん」  ほほえんで、ていねいにお礼を言ってくれる。 久々に、なんだかいい気分になった。なのに。  女性が車体から距離を置いた瞬間にドアが閉まる。わたしを乗せたバスはそのまま即、移動開始。  水を差された気分で、イラッとしてしまった。  若葉車庫に着いても、わたしはバスを降りなかった。 「あの」  運転席をのぞきこむ。 「客を無視するのはよくないですよ」  林田っていう運転手は、無反応。ちらりと迷惑そうにわたしを見ただけだった。  ひっど! 迷惑してるのはこっちだっていうの!  もう、あったまにきた! こうなったら……
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