0人が本棚に入れています
本棚に追加
わたしは学校の前に車庫の内にある営業所へ足を伸ばした。
受付の女の人が
「ご用件をおうかがいします」
礼儀正しく出迎えてくれる。けど、
「運転手の、林田さんのことですが」
切り出すと、途端に硬い表情になった。
「申し訳ありません、責任者を呼んでまいりましょう。その者が対応いたします」
厄介ごとの気配を察知して、お偉いさんに押しつけることに決めたらしい。逃げるように引っこんでいった。
代わりに出てきたのは、いかつい男性。
「あのっ。林田っていう名前の運転手さんが、」
「君は、大蔵高校の生徒か」
改めて事情を説明しようとしたら、顔をしかめてさえぎってきた。
「こちらにも事情がある。そもそも、学生の本分は勉強だろう。くだらないことをやっていないで、さっさと学校に行きなさい」
かっと頭に血が上る。
くだらないってなによ!?
クレーマーだから、話を聞く価値もないと判断されたんだろう。気持ちはわかるけど、子供扱いで軽くあしらわれたのが嫌でたまらない。
何か言い返そうとしながらも、ふさわしい言葉を思いつく前に
「あまり大人の仕事を邪魔するなら、学校に連絡するよ」
脅しじみたことを言われ、引き下がるしかなかった。
わたしは気づかなかった。休憩中の運転手が1人、面白そうに一連のやり取りを聞いていたのを。
「ふ〜ん。あいつの容姿に惑わされない子、か。いいんじゃないの?」
彼は笑って、飲み終わった野菜ジュースの紙パックを握りつぶす。
もたれかかっていた壁から背を離して、紙パックをゴミ箱に捨てに行った。
「さ〜てと! 点検点検」
最初のコメントを投稿しよう!