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「青崎」
放課後。
自分の名前を呼ぶ声が聞こえて、振り返る。男の人の声だった。
後ろに立っていたのは、同じクラスの男子だった。よく佐倉くんと一緒にいた。
「……なに」
私がつぶやくと、彼はため息をついた。
「青崎、優が転校すること知らなかったのか?」
「知らなかった」
彼は眉毛を持ち上げた。
「本当に知らなかったのか?優と青崎結構仲良くしてただろ。やっかんでた女子も多かっ……」
「知らなかったの……!私はっ、佐倉くんのことを何も知らなかった……」
急に泣きだした私に、彼はあからさまに戸惑いを見せた。
「ちょまっ、泣くなって……!」
俺がいじめてるみたいだろ?と彼はため息をついた。
「とりあえず涙拭けって。俺は帰る」
私が泣きだして気まずくなったのか、彼はぷいっと私に背を向けた。
誰も私と佐倉くんの間に起こったことを知らない。
私と佐倉くんの抱えていることの重さなんて、誰にもわからない。
……このまま、消えてしまいたい。
私は窓の外を見つめる。
普段と何も変わらない、私の生まれ育った町。
佐倉くんのいない、町。
そのままぼうっと窓の外を見つめていると、誰かに肩を叩かれた。
恐る恐る振り返ると、そこにいたのは担任だった。
「青崎さん。……あなたに、渡したいものがあるの」
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