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青崎優さんへ
突然転校することになってしまって、ごめんなさい。
青崎さんへ伝えないといけないことがあるため、この手紙を書いています。
実は俺は、5月ごろに青崎さんが虐待にあっていることに気が付きました。
きっかけは本当に些細なことです。家庭科の調理実習の時に、お皿洗いのため腕まくりをした青崎さんの腕にあざや傷がたくさんあるのが目に入ってきて。
そこからずっと、俺は青崎さんと話したいと思っていました。
合唱祭実行委員のくじ引きで青崎さんとふたり、委員をつかみ取った時、俺は神様がチャンスをくれたのだと思いました。
でもすごく悔しかったです。
なんでかって?
俺は転校することが、その時既に決まっていたから。
もっと早く青崎さんと話して仲良くなりたかったなあと思っています。
でも、悔やんでも仕方がないから、青崎さんと過ごせる今を楽しもうとも思っていました。
青崎さんが俺に虐待を打ち明けてくれた時、俺はほんとうに嬉しかったけれど、たまらなく悲しくなりました。
青崎さんが、泣いていなかったから。
ああ、青崎さんは泣けないんだ、って思いました。
だから、陳腐だけど、言わせて下さい。
泣きたいときは泣いて、笑いたいときは笑って、怒りたいときには怒る。
それは、何も間違ったことではありません。
感情を抑制されて日々生きてきたから、難しいことだとは思うけど。
でも、何も間違ったことではないのです。
そのことを、どうか覚えていてください。
プライドが許さずに、口では言えなかったこともあります。
実は、父親の仕事の都合というのは嘘です。
本当は……父親が多額の借金を抱えていたことが発覚して、家賃の支払いがストップして、夜逃げせざるをえなくなったんです。
青崎さんから憐みの目で見られるのが怖かった。
青崎さんは優しいから、辛かったね、って言うだろうと思ったんです。
でも。辛かったねって言われたくなかったんです。
自分のみじめさが嫌になるから。
だから、何も言わずに去って行こうと決意しました。
よそよそしくして、青崎さんを少なからず傷つけたと思います。
ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさい。
最後に。
俺は、青崎さんの存在に何よりも支えられていました。
同じ年に同じ思いをしている同じ名前の子がいるということ。それだけですごく安心できました。
俺たちはお互いを支えあっていました。
それは、会えなくても、いつまでたっても変わらなくて良いと思うのです。
だから……何かあった時は、俺のことを思い出してください。
俺も、一番の友達として、青崎さんのことを思い出すから。
今までほんとうにありがとう。
青崎さんと友達になれて、幸せでした。
佐倉優より
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