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手紙を読み終えると、私は黙って深呼吸をした。担任が心配そうに私を見つめている。
「……手紙。渡してくださってありがとうございました」
私が呟くと、担任がほっとしたように笑った。
「佐倉くんの気持ちの詰まった手紙だもの。渡さない訳にはいかないわ」
その一言を咀嚼している間に、担任が手を叩いて立ち上がる。
「さっ、戸締りをしないと。青崎さんも早く帰りなさい」
私はもう一度頭を下げて、教育相談室を出た。
校門でから出て、私はまた深呼吸をした。
深く、深く息を吸って、また吐き出す。
深い呼吸と浅い呼吸を繰り返す。
大丈夫。私はまだ、生きている。
佐倉くんだってきっとどこかで生きている。
そう思いながら、静かに佇む校舎を見つめる。
やれ部活だバイトだとさざめく生徒。
手を繋いで下校するカップル。
放課後の予定を練る女子グループ。
……ひとり校門の前に佇む私。
佐倉くんのいなくなった学校は、一番の友達がいなくなった学校は、私にとってもはやなんの意味もなさない箱と化している。
でも、それでもいいと私は思った。
佐倉くんがこの世界のどこかにいると思えば、私を理解してくれる人がこの世界にいると思えば、呼吸が少し楽になる。
当たり前の日常を、当たり前に生きていける。
だから、もう少しだけ。
「もう少しだけ、生きてみよう」
ねぇ、それもいいでしょう?佐倉優くん。
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