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私の心にたまった不信感は、その日から徐々に大きく濃くなっていった。
放課後の打ち合わせなどはことごとく拒否され、理由を聞いても毎回はぐらかされる。それだけでなく、普段の対応も徐々にぎこちなくなっていき、出会ったころに逆戻りしたかのような状況になった。
しまいには合唱祭実行委員の集まりすら欠席しだし、私はもう問い詰めるしかないと腹をくくった。
「……佐倉くん」
今日もそそくさと帰ろうとした彼の背中にそっと呼びかけると、肩をびくっとさせて振り返った。ぎこちない笑顔が、彼の顔面に張り付く。
「青崎さん」
「最近ずっと、私のこと避けてるよね?」
いきなり核心に切り込んだ私に、佐倉くんがびっくりしているのがわかる。
「どうして?私たち友達でしょう?私はそんなに頼りない?」
驚かないで。だって私が一番驚いてる。
「ちゃんと、話をしよう。佐倉くん」
いつの間にか教室には、私たちしか残っていなかった。
陽がだんだん落ちてきた。やれ部活だバイトだとさざめく生徒の声がかすかに聞こえる。放課後特有の静けさの中で、私は佐倉くんを、問いただす。
「何があったの?」
佐倉くんの顔が歪んだ。そしてそのまま、しゃがみこんだ。
「言えない」
私も佐倉くんと同じ様にしゃがみ込む。
「それは……私が頼りないから?」
違う、と佐倉くんがあえぐようにつぶやく。
「だったら、どうして」
「青崎さんにはっ、」
こんな顔、見せたくない、と佐倉くんがつぶやいた。
どうしてだろう。
どんな刺激にも慣れているはずなのに。
ほぼ毎日心も体も壊されて、息をするのも精一杯だったはずなのに。
佐倉くんが何も言ってくれなかったことが、
人生で一番、辛かった。
走り去っていく佐倉くんの背中を、私はただ呆然と、眺めていた。
この静けさの中に溶けてしまいたいと、私は声を殺して泣きながら、願った。
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