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神のもとへ
友人の情報を頼りに、俺は電車に乗り神社へ向かった。
駅を降りると、そこは無人駅でとても静かな場所だった。
風が心地よく、むしろ涼しいぐらいだった。
言われた通りの道を進むと、俺の目の前に石段が現れた。
「よし。」
俺は気合を入れて石段を登り始めた。
しかし、登れど登れど一向に神社にたどり着かない。
こんなに石段を上るなんて友人は言っていなかった。
おかしい…こんなにたどり着かないなんてことがあるのか。
上を見上げても果てしなく石段が続いているばかりだ。
俺は心が折れそうになっていた。
本当に神社なんてあるのか。
本当にここであっているのか。
まだ登らないといけないのか。
…もう、帰ってしまおうか。
しかし、俺はぐっと歯を食いしばった。
「ふざけんな!ここまで来て引き下がれるか!俺は…俺は魔法使いになりたいんだ。ずっと、ずっと、子供のころからずっと夢だったんだ。俺の夢をなめるな!」
そして一歩階段を上った瞬間、突然俺の目の前に神社が現れた。
あまりに唐突にあっけなくたどり着いたので、俺は拍子抜けしてしまった。
「…着いた。ここか…。」
そこは、木々が生い茂り、鳥居の向こうには石畳が敷かれ、やわらかい日差しの差し込む空間だった。
俺は、友人から教わった作法を思い出した。
心臓の脈が速い。
信じられない数の石段を上っていたのもあるが、単純に緊張していた。
出来るかな…。
いや、大丈夫、家で死ぬほど練習してきたじゃないか。
俺は深呼吸をし、呼吸を整え、覚悟を決めた。
まず、鳥居をくぐる前に一礼。
そして、一メートル先を見るような感覚で、決して視線を上げず、前へ進む。
鳥居をくぐった瞬間、左から強い風が吹きつけてきた。
俺は思わずよろけそうになりながらも、必死で前に進んだ。
風に耐えながらしばらく歩くと、地面に敷かれた石畳が途切れた。
そこまで来たらようやく顔を上げることを許される。
顔を上げると目の前には俺の体の何倍もの大きさの岩があった。
静かにそこに鎮座している岩を見上げ、俺は思わず小さく息をついた。
気が付くとあれだけ強く吹いていた風は止んでいた。
あっ本当だ…ここは…
そこで初めて、友人が言っていたことが分かった。
近くにあるようでとても遠い。
決してこれ以上は近づいてはいけない感覚。
ここは、軽い気持ちで来ていい場所じゃない。
何もかも見透かされているようだった。
けれど、よく来たと歓迎されているような気もした。
俺は思いっきり息を吸い込んだ。
「俺は、魔法使いになりたいんです!!!」
俺は腹のそこから、精いっぱいの大声を出し叫んだ。
「子どものころからの夢で、俺はそれを叶えるためなら何だってします!」
とにかく思いのたけを伝える。
それが、友人から教わった作法だった。
「お願いします!!!」
俺が勢いよく頭を下げると、
頭上に何かが降ってきた。
「いてっ!」
足元を見ると、そこには一冊のノートとペンが落ちていた。
「えっ?…あっあの、これは?」
俺はとりあえずそれを拾い、岩に問いかけた。
しかし、岩はうんともすんとも言わない。
「えっ…。」
俺は頭を抱えた。
魔法の杖が降ってくるならともかく、こんな現実的なものが降ってきて、これを…俺にどうしろと?
サーッと風が木々を揺らす音がして、俺はハッとした。
まずい、長居は禁物と言われていたんだった。
俺は、岩に向かって丁寧に一礼し、踵を返して鳥居へ向かった。
鳥居をくぐるまでは振り返ってはいけない。それが帰るときの作法だ。
帰り道は風に吹かれることもなく、あっという間に鳥居に着いた。
鳥居をくぐり、一礼。
これで、この神社の作法はすべてこなした。
俺は石段を下り始めた。
手にはノートとペンを握って。
これはなんなんだ?なんの意味があるんだ?
これで、俺に何をしろと言うんだ?
「あれ?」
そんなことを考えていると、あっけなく地上についた。
行きはあんなに石段を上ったのに。
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