32人が本棚に入れています
本棚に追加
「ツェグおじさん。」
ゲルの入り口の布をかき上げて、ユルが入って来た。
「これ、オババ様から」
と、液体の入ったお椀を手渡された。
「あ、ああ。ありがとうな。」
ツェグは、不気味な緑色の液体を恐る恐る見た。
「傷に効く薬湯ですよ。」
ツェグは、何か決心したようにそのお椀の液体を喉に流し込んだ。
「まずっっっ」
「良薬口苦し、ですよ。」
ユルは、そう言うと空になったお椀を受けとると出て行った。
「あの子…」
「うん?」
「ずっうと、貴方を見ていたわ。」
気味が悪かった、とササリが言った。
同じ村人でありながら、シャーマンは村人と一線を引いた場所にいる。
尊敬と畏れを持って接している。
中には、気味が悪いと煙たがる者もいるが、病気や怪我などにはシャーマンに頼るしかないのだ。
ツェグは、自分の妻はシャーマンを気味悪がっている者なんだな。と納得した。
だから、そう思ったに違いない。
ずっと見ていたのは、自分が薬湯をちゃんと飲むかどうか見ていただけではないだろうか。
「大げさだなぁ。」
ササリは、夫の呑気な声を聞いて、 ああこの人はあの冷ややかな観察するような目を見てないからそう言えるんだな。と思った。
最初のコメントを投稿しよう!