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十になる少年が、岩肌を登っていく。
少年の口から吐く息は白い。
手には大きな杖を持っており、その杖はよく磨かれたた茶色をしており、先端はぐるりととぐろを巻いた蛇を連想させる。その中央には月水晶がはまっている。渦を巻いた首あたりには、紐にくくりつけられた木札と鈴が、岩肌を打つ度にシャラシャラと音をたてる。
「はぁっ、はっ」
少年の息はあがっている。
糸のような細目が、夜空を見上げた。
赤茶けた髪は後ろで三本に分け、それぞれ三つ編みにし、先端は金の輪を通し髪に結んでいる。
毛皮のついた首当ての羊の皮を鞣した服を着ている。帯で絞めている刺繍の柄は、太陽と月と鳥の意匠である。刺繍の意匠は彼の一族を意味するものである。
シャンッッ
一際大きく杖のついた鈴が大きく鳴り響くと、少年は頂上にたどり着いた。
両手で杖を持ち、息を整える。
そして、顔をあげた瞬間息を飲んだ。
どこまでも続く広大な草原。
そして、上空ではたくさんの龍がうねり、牙を向き合い、攻撃をしている。
糸のような細い目が、目いっぱいに開かれた。
龍は互いを喰らいあい、大きくなっていく
「嵐が、来る。」
そう、呟いたとたんに耳元で弓が風を切る音が聞こえた。
怒号が鳴り響き、地響きが聞こえた時に少年は、自分の胸元を見た。
自分の胸に矢尻が突き刺さっている。
胸元が真っ赤に濡れそぼった。
「はっ、?」
恐る恐る自分の胸に手を当てた。
何も濡れていない、手にも何もついていない。
少年は、再び上空を見た。
限りなく広い空が広がっていた。
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