32人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうだ、まだ若様がいるじゃないか。」
「ドゥルジ様なら」
「シャーマンがそう言うなら…」
と、さざ波のように声が聞こえてくる。
アヤンガはユルを見た。
(こいつ、大きな声で言ったのはわざとか。)
ドゥルジもじっとユルを見た。
シャンッッとユルは杖を、ドゥルジの後方へと向けた。
「ドゥルジ様、大シャーマンに会いに行って託宣を受けとるといいよ。」
ドゥルジは、自分の背後を振り返った。
門から真っ直ぐ行くと、自分の長のゲルがあり、その後方に丘がある。その上にひっそりと佇むように白い幕屋がある。
「その必要はない。」
しわがれた声が人垣の後方から聞こえた。
人々は驚いたように、道の真ん中を開けた。
そこには、普段は丘の上で祈りを捧げている老婆の大シャーマンと、大シャーマンが歩くのを手助けるように6歳と5歳のシャーマンが両脇にいる。
人々の間を、真っ白い長い髪に青い瞳。白いその面には深いシワが刻まれている。白い衣を着て鈴がたくさん連なる杖を持っている。
「オババ様。」
ドゥルジは拳を作りそれを交差させて、胸に当て一礼した。
オババは、ドゥルジの前に立つと杖を持ちあげた。
「長のダルハが御霊となって鳥となり飛び立つのが視えた。」
オババの言葉に、辺りがざわついた。
ツェクが言った事は本当だったのかと、皆が青覚めた。
「オババ様、う、うちの人は???」
「うちの子は?」
「無事なんですか???」
死という言葉を出すのが恐ろしくて、女
達はそう聞いた。
オババは息を一つ吐くと、首を緩やかに横に振った。
「そんなっっ!??」
女達は、泣き崩れた。
「嘆き悲しむのは、後だ。今からこの村を奪いに来るだろうさ。」
ひぃっと悲鳴のような声があがるが、大巫女が杖を地面に叩くと鈴の音がシャランッと鳴った。
辺りが、さざ波を引くように静まり返った。
「ドゥルジ様には、次の長になっていただき、戦ってもらいたい。」
ドゥルジは、唇を引き結ぶと頷いた。
オババは、さらにドゥルジに近寄ると杖を天高く持ちあげた。
「ローは、大いなる龍の加護がある。その龍の加護を受け継ぐのは、雷鳴轟く日に産まれたドゥルジだ!」
そして声高に宣言した。
80名の村人は、ドゥルジに跪いた。
ここに若き長が誕生した。
最初のコメントを投稿しよう!